　現代人は自己神格化を余儀なくされている、というメッセージをどこかに書き込んだように思います。この問題に付いて考えてみたいと思います。
　自己神格化とは自分自身が神にされてしまって、神としての意識を持っている、と言うくらいの意味とします。そこでまず神とは何か、と言う事が問題に成りますね。私は人間の本質を個人を越えた類的な力と見、これを神的な力と見たフォイエルバッハの考えに同意します。
　宗教上の神とは、この人間の類的な力が人間から分離されて、人間に信仰を要求する外的な力となったもので、人間の自己疎外なのですね。彼は「神は全ての疑いを解く無知である」と言う気の利いた事を述べています。
　ところで、私は「哲学は効くか」で「全て人間は哲学者として生を受けている」と書きました。また「哲学が効いた」では「哲学は自己否定しないと効かないのかもしれません」と書きました。この書き込みは、実は現代人の自己神格化と言う私の見立てと関連しているのです。
　現代人の自己神格化がなぜ生じたか、と言う事を論じようとすれば長くなってしまいますのではしょって説明します。生まれたばかりの新生児は、家族とのつながり無しには生きて行けないように、成人になっても人間は他の人々との社会的つながり無しには生きて行けません。
　そしてこの社会的つながりが、約200年前にはそれしかなっかった共同体的なつながりと言う人間くさいものから、だんだん、お金と言うドライな物的関係へと置き換えられて行ったのですね。
　お金自体は物の関係をとった人間の関係です。しかし、例えば他人の商品をお金で買う場合、これはもともと自分が働いてお金を稼いでいたいたから出来たのですが、お金を使うと、自分の働きではなく、お金そのものに他人の商品を買う力があるように見えます。
　何かしら、あたかも商品やお金に自己意識があり、人間はそれに自分の意志を宿して生活するようになっていますね。手持ちがなくなればアルバイトにいかなければならない、ということも、お金に命令されていると考える事ができます。お金は商品の世界では、何でも買える万能選手ですから神の座にあります。このお金に自分の意志を宿したとき現代人の自己神格化が始まると私は見ています。
　現代人は良く「自立せよ、他人に迷惑をかけるな」と教育されています。この美しい言葉の裏には「お金の奴隷になれ」というメッセージが隠されています。というのも、今日、自給自足で暮らせる人はごくわずかで、たいていの人は、雇われて働かなければ「自立」できないからです。そしてお金があれば、人生のほとんどの問題は解決できるようになっていますから、もう、自分は人間の類的な力を持ち、神的な力を待った存在だと思い込む他はないのですね。
　こうなると、自分の意識に付いて考える哲学など無用の長物のように思え、今さえ楽しく過ごせたらいいという、マスコミの広告に順応して生きて行ってしまいます。
　でも、自己神格化されているとはいえ、この「神」には本当の所全能の力はなく、ポケットのお金で評価されてしまう、実際には悲しい神なのですね。その上他人に頼れないから孤独でさみしい。そんなこともあって、この自己神格化を余儀なくされていることに嫌悪の感情をもつ人たちが増えて行っているのですね。[2003/02/07 00:24:47]

2）ディペートの試み

　「お金を使う現代社会を肯定的に捉え」る、と言う事は、バブルの頃までならともかく、今は非常に難しいですね。今は本来企業にお金を融資する事を事業としてきた銀行が自己資本率を上げるために貸しはがしをして、優良な企業を資金ショートさせて倒産させているし、そのもとは株価の下落による銀行の資産の目減りなんですね。今はお金の悪い所がドットでて来ていてそれで地域通貨の試みがいろんな所で為されたりしています。
　もしお金を擁護するとしたら（1）お金持ちはドンドンお金を増やせるがその他大勢は貧乏になり大金持の天下になります。（2）大金持になるとなんでも出来ます。特に政権と結びついて、弱い国に爆弾の雨を降らす事が出来ます。（3）大金持になると財団を作って色々なプロジエクトに寄付をし、弱者を救済したり、環境問題に貢献できます。
　今日お金を擁護するとしたらこんなブラックユーモアのような事しか思い浮かびません。エンデは物を交換するお金と利子を取るお金とを区別しました。私が擁護したのは利子を取るお金です。と言うのも今日利子を取るお金が物を交換するお金の上位にあるからです。銀行のせいで企業が倒産を余儀なくされている、と言う事がその証拠です。
　これでは期待に添えないかもしれませんが、今お金の長所を述べるのは難しいですね。[2003/02/08 00:12:02]

　先の書き込みではちょっと味気ないので昔を思い出して商品経済のいい所を書きます。

（1）商品経済が発達する事で人間の政治的平等が実現しました。いわゆる身分制があり移動もままならなかった封建制が打破されたのですね。でも今の人たちどれだけ旅行しているでしょうかねえ。江戸時代の農民と変わらなかったりして。雇われていると言う事も本百姓と比べてどれだけ生きやすいでしょうかねえ。政治的平等というのは経済的平等とは違うのですね。現代人は政治的平等は得ましたが経済的には封建時代の農民よりももっと縛られているのではないでしょうか。
（2）市場が発達する事で、人々は社会全体をどうするかを考える必要はなくなり（昔の共同体は全体の事を考えて、土地の利用や水利の計画を立てていました）自分個人の利益になる事だけを追求すればいい。市場の見えざる手が全体のバランスを取ってくれる。これも今はウソになりましたね。銀行が泣かされている不良債権には見えざる手は働きませんでした。
（3）資本主義になって初めて科学技術が発達し便利な生活が実現した。おそらくこれが一番皆に支持されている理由でしょうね。生産力はものすごく発達しコンピュータまで出来てインターネットで色々な事が出来る。おそらく生産力を発達させられなかったら、資本主義はもたなかったでしょう。でもこれが今生態系を撹乱して地球上の生物の生存の危機を招いているのですね。
　何かいい所を書こうとしてもつい限界を書いてしまいます。
　本当のいい所は商品や貨幣に自分の意志を宿せる、ということでしょうね。人間は何かに順応する事になれているのですね。他人の意志に従う事は今の人には耐えられませんが、商品や貨幣の言う事には素直に従うのですね。でもこれも「ひきこもり」の人たちが大量に出現する事で万能ではなくなってきています。やっぱり今の社会は黄昏時を向かえているのではないでしょうか。反対意見はありますか。あれば貴重な意見として伺います。
　なおお金は資本主義が生まれる前からありました。資本主義が生まれた事で、お金に、単なる交換手段の他に人を雇って働かせて利潤を得る資本の機能が備わりました。その上利子を生む利子うみ資本が発達し信用制度が出来ました。お金を交換手段に限定すればかわいいものかもしれませんがそのような素朴なお金は今はありません。さらに今お金を儲けようとしたら企業家でなく、投資家になって、投機に手を出さないとだめなのですね。でもこれは必ずリスクを負っていつか大損をするでしょうね。ベンチャービジネスの旗手達もそうなりましたね。暗いはなしですみません。[2003/02/10 01:06:42]

3）神的思考法の解毒

　ちょっと間が開きましたが、最初の書き込みの続きを書きます。
　自己神格化は、雇われて働き、お金で生活している限り避けられない、とすれば、これが嫌になった人は、ダメ連ではないが「ダメをこじらせる」と言う事になりますね。しかも神はいやだから人間に戻ろうとしても、人間的な社会的つながりは独りでは紡ぎ出せませんから、容易には戻れない。せいぜい「まったりとした時間」をすごす事で一息つくしかない。
　となれば、せめて頭の中だけでも人間的になれないのか、ということについて考えたのが、「哲学は効くか」でした。神的な思考法としてある自己絶対化から、人間的な思考に目覚めることは、そんなに難しい事ではないと私には思えたのです。
　カントの『純粋理性批判』（岩波文庫）中巻の超越論的仮像論と出会う事で、相当のことがわかります。カントはヒュームらの懐疑主義の批判を行ったのですが、それは、存在するものがあって、そこから人間の観念が生じると言う懐疑論の前提そのものをひっくり返し、人間は自分の観念に基づいて存在を捉えるのだと考えたのでした。このカントのコペルニクス的転回によって、人間の理性の限界が示されたのです。
　原因と結果といった因果関係や法則性と言ったものはすべて人間の理性に属するものであり、人間の思考がこのような観念をもっているから、対象を原因と結果を持った法則的なものと捉える事が出来るが、しかし、対象そのものにこれらの属性がある訳ではない、とカントは主張したのです。その上で、人間の理性が必然的に陥る錯覚として、上記の事がわかっても、対象が法則をもっているかのように思い込んでしまう、と言うのです。
　このようにしてカントは人間の理性の働きの中に、理性そのものの合理性をあたかも存在の合理性と考えてしまう取り違えがある事を指摘したのです。ところで自己絶対化の思考構造とは自分の思考の働きで捉えたものが、他者の存在様式だ、ということを固く信じている、と言うものではないでしょうか。カントのように「物自体は認識できない」とまで言う必要はないですが、カントの超越論的仮像論は自己神格化している現代人におすすめの一服です。頭の中を変えるだけでは問題は解決しない、身体は、行動は、といった事に付いては別の機会に書きましょう。[2003/02/13 23:50:34]

　カントの超越論的仮象論についてはカント研究者の間ではずっと無視されてきました。これに注目した研究者は少数派で、手じかに参照できるのは石川文康『カント入門』（ちくま書房）くらいです。カントのこの見解が無視されてきた理由は、科学技術の発達でしょうね。ヴィーコが述べているように、科学的真理とは人間が作ったものについては妥当するが自然については妥当しない。ところが現代社会は人工物で取り囲まれているのですね。この領域では科学的真理は妥当します。だからついこの事が自然にも妥当すると思い込んでしまうのですね。それに学校教育で、科学的真理が自然の法則の解明であると教えられますね。このような考えの再検討がいま問われています。[2003/02/15 22:51:08]

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 5231 times