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アリスメンディアリエタ試論

もう一つの社会変革

アリスメンディアリエタ試論

1）問題の設定

　「資本主義の経済システムを変革するには二つの方法しかない。一つは資本家階級が独占している生産手段を収奪することであり、もう一つは、労働者階級が資本家階級のもとに働きに行かないことである。」（本誌6号、22頁）
　このように問題を提起したあと、前者の方法についてはロシア革命で実行されたものの、その後、商品・貨幣の廃絶の問題でつまづき、今日の時代の方法としては現実性が薄れてきているのに対して、後者の方法の現実性が増してきているのではないかと述べたことがあった。そのとき、後者の方法は「いまだ革命の戦術としてはまとめられたことはない」（22頁）と考えていた。
　ところが、『アリスメンディアリエタの協同組合哲学』（みんけん出版）を読んでみると、後者の方法が革命の戦術としてまとめあげられていることが判明した。この本に則して、革命の戦術としての後者の方法（「もう一つの働き方」を実現することを通した社会革命）を紹介しよう。

2）最初の10年、実践性

　アリスメンディアリエタは、1941年にカトリック教会から神父として、生まれ故郷のモンドラゴンに派遣された。着任してすぐ、青年労働者の研究サークル（カトリック労働青年団）の研究活動に参加する。
　「労働者は、教育と自己自身の労働を通じてのみ自分を解放できる」（前掲書、66頁）という一つの明確な思想をもっていたと言われる彼は、43年10月には技術専門学校を開設し、技術教育の場をつくるとともに、他方で労働者の未来の指導者を育てることを目指して、社会アカデミア（研究会）を組織し、精力的に研究会を開いた。
　しかし、45年頃には、教会の主流とのちがいが表面化し、彼は、教会の立場にこだわらず、民衆に学び民衆と共に歩む方向を意識するようになる。教会が、スペインの再キリスト教化のためにカトリック行動団を組織し、それを「教会と国家を支援するための神の道具」（同、80～81頁）と位置づけていたのに対し、彼は、「青年の組織化に力を注ぎ、同時に強力な社会意識を青年たちにもたせようとした」（同、81頁）のだった。45年のカトリック青年労働者団の会議で彼は次のように述べている。
　「カトリック使徒により組織され、法王に認知された神の道具たるカトリック行動団の使命は、社会的精神・感性をもって人々を組織化することである。大衆の信頼を得るようにし、同時にプロレタリアートの昂揚を法王の呼びかけにより獲得しなければならない。」（同、81頁）
　このように、教会主流とのちがいを明確にしたアリスメンディアリエタは、以降、社会教育に全力をあげるとともに、社会・経済の研究を続ける。2日半に一回は研究会に出ていたと言われている程の熱心な活動が続けられたが、それは次のような構想の下に進められていたのであった。
　「私たちは、各地方における活動、宣伝プランをすでにもっております。情報連絡網をつくることが私たちの前進を図るために必要であります。その組織は地味で真面目であり、かつ少しでも大衆を動かすための必要な全てのものを展開する能力が必要です。私はあなたの目的理念に役にたつよう、手持ちの発行パンフレットをいくつかあなたに送ります。新しい団体機関の設立という理念を打ち出すほどには、事はまだ成熟していないと私たちは思っています。そうした取り組みの前に、人々の前に私たちの優れた点を着実に示したいと思います。そして、労働者を具体的なきちんとした目的の周りに集めたいと思います。あれこれの原則を掲げるだけの宣伝というものがありますが、現時点では何の役にもたたないものです。諸原則の適用や対象の具体化は、とりわけ特権的な階級の人々によって、より困難なものとして現れています。一般的原則をひけらかすことは容易ですが、しかしその中身を実践する段になると、ただちに司牧たちを慎重に分別くさくさせるのです。」（同、88頁）
　ここで述べられている「労働者を具体的なきちんとした目的の周りに集めること」は56年の最初の協同組合の誕生をもって現実化するが、そのときには教会主流に幻想はもっていなかった。
　「社会伝道や『労働者と仲間付き合いをする』という分野で、真面目に行動する戦闘的部隊を組織しなければなりません。私が気付いたことは、人々はわれわれの呼びかけに対してその都度応えることに疲れており、司教文書に載っている教義のあれこれには少しの説得力もないことです。一方、司教にしろ使徒にしろ、キリスト者の使命として任務を遂行する決意と連帯もあまりみられません。私のみるところ、すでに教義はわれわれの精神的ブルジョア化や不真面目さの表れを暴露するための批判に少しもなっていない、と思われます。」（同、85頁）

3）協同思想への目ざめ

　社会アカデミアをはじめてから6年、ネットワークづくりを進めるなかで、アリスメンディアリエタは、協同思想に目ざめていく。まだ協同組合や協同組合主義という形をとっていず、イメージされているものは共同体であるが、49年に書かれた文書には、すでに「もう一つの働き方」を実現することを通した社会革命の戦術の萌芽が生まれている。
　「わたしは適切な表現ができるような言葉〈協同〉を使った。しかし、社会生活の中でもつこの言葉の重要性に対して、私としては言葉足らずであることを恐れる。協同は、それによって前進が可能になる唯一の道を示すものである。即ち、真の公正や社会的平和へ到達することのできる唯一の道を示している。この道によって自分の歩みを正しくすることのできない個人や集団は、時間を失うばかりか、たいていは喪失や破滅にしか出会わないのである。
　われわれは互いに必要としあっている。相互に補完しあうものとしてわれわれは呼びあっているのである。孤独に耐える力ある者は、神か動物であると、ある高名な哲学者は述べている。言いたいことは、諸階級は互いに必要とし協力しなければならないということである。人民と諸権力は分離してはならない。諸制度は相互援助を行わなければならない。このことを真面目に追求するならば、共同の福利も全員の福利も、たとえ礼儀や虚栄やおごりや支配欲を隠すものでしかないもっともらしい理由によるにしろ、排他的な特殊な個人主義的な意味はもっていない。このためには、企業家がよいことをおこなうということだけでは十分ではない。真の共同が存在するためには、そこに労働者が参加する必要がある。また、労働者が大きな改革を夢想するだけでは十分ではない。事業家や企業家がその熱意・技術・経験を持ち寄ることが必要である。即ち、諸権力が大目標を決意するだけでは十分ではない。というのも、それを達成するためには、常に彼らが手中にしているもの、あるいは到達点以上のものを必要とするからである。…………………全員を一つにするために、各人にその立場を指示する努力を止めなければならない。そしてわれわれの全ての力が共同財産の獲得のために向けられた真の共同体の建設のために、相互の範囲の中で任務と感情を相互に一致させて共生していかなければならない。その中にまさに人間の社会性が成立するのである。忘れてならないのは、共同のために献身することは、共同体の充足にも合致することである。」（同、192～3頁）
　この文書はまだキリスト教の社会教義の枠内にある。但し、協同によって共同体を実現していくことのなかに「人間の社会性」を見ていたことが注目されるべきだろう。ここに現実の社会とのつながりがあり、アリスメンディアリエタの提起の実践性があった。
　この本の著者は、「アリスメンディアリエタの考えの中では確かに階級闘争が最小の役割しか果たさず、あるいは実践上欠落している。彼の基本的概念は全く逆のもの、即ち、協力だからである。」（同、190頁）と評価している。
　確かに文字通り受け取れば、この文書は「諸階級の闘争を呼びかけたのではなく、諸階級の協力と協同を呼びかけ」（同、192頁）ている。しかし、著者も述べているように、現実にこの協同を実現しようとすれば、団結の力による他はなかった。
　「労働者大衆に示された困難は、まさにアリスメンディアリエタの目には、共同体のこの偉大な仕事において彼らが指導階級として人間としての尊厳をもって協同することが認められていないことであった。したがって、彼らは力によってその協同を強制しなければならない。そしてプロレタリアートの力は、団結と労働に基づく。」（同、193頁）
　著者がここで述べていること、これはアリスメンディアリエタにとっては実際に協同組合をはじめるなかで明確となったようであるが、協同も力によって強制されなければならないとすれば、それは一つの闘争に他ならない。アリスメンディアリエタの協同の提起は一つの階級闘争を含んでいたと見る方が正しいであろう。この階級闘争の一つは文化革命であった。50年には「文化の社会化」が提案される。
　「われわれの前にある社会における最も悲しい遺産は、教育や訓練の機会の欠如であり、経済的な不平等であろう。経済の不平等の解決が、その基盤において、教育や文化の社会的不平等の解決と一致しない場合、社会生活の進展には少しもならないし、さらに、社会生活は自動的に消滅してしまう。今日、広範な特権を享受している経済的不平等と文化や教育の機会における排他主義は、人間社会を協同の連帯や兄弟愛的展望もなく閉じられたカースト制や階級敵対へと追いやるものである。
　したがって、現代の要請に対してより調和した社会的規則、社会の中で不可欠な進歩を形成しなければならない社会的規則は、文化の社会化である。そうなのである。親愛なるモンドラゴンの皆さん。文化の社会化は、階級のこれらの障害をとりのぞき、われわれの社会の特権層の独占を緩和させ解消させるために不可欠な、何よりの手段なのである。本来の意味でいえば、富の社会化よりずっと重要であり興味深いものである。富が社会的に誰かに横領されていようとも、文化の社会化の改革がまず第一におこなわれていなければ重要性をもたない。
　学校が開設されるたびに監獄が一つ閉鎖されると、以前ある有名な労働運動指導者が言った。しかし文化や簡素な教育のための学校が開設されることが、監獄が不要なものとして自動的に閉鎖されてしまうことになると考えるほどにはわれわれは単純ではない。だから、われわれが各教育施設の準備を始め、人々や14歳から20歳の未熟な青年に向け開始すれば、学校は克服すべき社会的構成のための新しい陣地となり、彼らに社会生活における新しい影響力のある分野を開く陣地となり、プロレタリア大衆を訓練し、組織し、意識的なそれゆえ健全で自由な、社会において自らの運命の主人となる人民に変革する陣地となることは確実である。
　人が働く社会の中で、保障制度を受ける権利をもっている者もまた何らかの理由で働くことのできない者もまた、共同体の社会保障を受けられることができ、他人の援助を必要としない者は誰もいないことを忘れずに、各人がそのもつものを各々に与えることをまさにその目的として共同体が組織されることが、共生と相互尊重の中で生活の可能性としてわれわれに保証されるのならば、結局誰も何も失わないであろう。おそらく、この種の社会の発展の可能性についてはわれわれはあまり信を置いていない。しかしながら、今日確信できることは、生活のこれらの社会的条件を創造するための努力をおこなうことである。さもなければ、われわれの文明は台無しになるであろう。われわれは決然とこれらの条件を創造するところまで前進するのか、それとも武力によって容易に抑え付けられてしまうなどとは考えてもみない革命に巻き込まれるのか。これらの条件は公正の精神、平等、真実に対し影響を与える物であり、戦車の壁によっては抑え付けることのできないものである。」（同、189～190頁）
　ここで展開されている思想は、「文化の社会化」という綱領的課題を実現するシステムとして、協同にもとづく共同体が考えられており、この生活の新たな社会的条件を獲得するために努力することを呼びかけている。まだ共同体のイメージは具体的ではなかったが、その共同体は、フーリエやオーリンのように、ユートピアとして位置づけられてはおらず、「文化の社会化」のための拠点として捉えられている。
　はじめに引用しておいた49年の文書にあった「人間の社会性」が「文化の社会化」として捉えなおされたとき、共同体の組織化が一つの戦術として浮かび上がることになる。

4）もう一つの社会変革

　書かれた時期は明記されてはいないが、共同体の構想が協同組合の設立へと具体化され、その事業が開始されて以降のものであろう。アリスメンディアリエタはすでにこの時点で、「もう一つの働き方」を実現することを通した社会革命の戦術を明らかにしている。
　「これまで基本的権利を守るため、不公平な搾取を避けるため、専横をやめさせるために労働者の団結が主張された。
　今日、われわれは労働の尊厳に見合った地平の推進のために、平均的な市民として社会政治的生活においてきちんとやっていくために、われわれに与えられた団結の力に頼らなければならない。というのも、外部からの保護を受けたりしていると、われわれは常に未成年とか二流の人間として扱われるからである。しかし、この慎み深い『従属』の状態は、基本的な発展や活動の要素としての投資がわれわれに無縁のものとしてある限りは、終わることはないであろう。即ち、われわれは投資をあたかもわれわれの活動の可能性や未来においていささかも影響しない重要でないもののように考えてはならない。そうではなくて、投資は活動と克服の基本的な鍵である。それ故、われわれの投資は緊急を要するのである。企業におけるわれわれの協同、即ちわれわれの労働で稼いだものを企業の設備に投資すること、給料を消費でなく投資に振り向けることである。この時以来、われわれはいわゆる企業家たちと同程度に企業を確保したということができる。企業家とは、企業の発展のための財政化の必要性に向けてわれわれの資金を守り条件づけるための資産を手中にしている者である。企業家は、これ以後、労働と財政のためにわれわれを頼りにするであろう。」（同、194～5頁）
　協同組合で働く労働者が、単に賃金を受け取るだけの雇われ意識にとらわれた存在であってはならず、賃金を消費にだけでなく、投資に振り向けねばならないこと、この企業における協同を実現するために団結が必要であること、この提起は、「もう一つの働き方」のキーポイントを突いている。
　「もう一つの働き方」が、単に、資本家の下での労働からの逃避でなく、積極的に社会革命をめざした一つの社会運動としての意義をもつためには、企業における協同を実現して、資本家的企業に負けないだけの投資をしなければならない。そうしなければ、それは「文化の社会化」の拠点になることはできず、社会に協同の力を示すこともできない。
　「われわれは多少なりとも、幸福な消費者である以上の者になる決意が必要である。即ち、われわれは投資家にもならなければならない。というのも、単なる消費者としてわれわれがしていることは、結局われわれの搾取者に対し、彼らを排除しようと一方の手でしながら、他方の手を貸しているようなものである。われわれは両手をしっかり保持し、慎重さを要する二つの機能の責任をもたなければならない。その機能とはわれわれの力を取り戻し諸力を償うために必要な消費の機能であり、もう一つは、われわれの未来をみるための、世代間の連帯を強めるために必要不可欠な投資の機能である。この投資家としての機能を果たすために、われわれにとっては団結が気位を確保することと同じかあるいはそれ以上に必要なのである。」（同、196～7頁）
　この団結がどのようにして保障されたか、これについては、この本の訳されていない部分を参照することが必要であり、今回は検討できない。しかし、これまでの展開を見る限りでも、アリスメンディアリエタは現実から学び、自己の思想を発展させてきた人物であることがわかる。したがって、彼の思想のなかには、モンドラゴン協同組合群に結集している人々の集団的な知恵が含まれていると見るべきだろう。
　逆にいえば、モンドラゴン協同組合群は、その活動の中で、「もう一つの働き方」を実現することを通した社会革命の戦術を実践してきたが故に、ここまで成長してこれたのであり、その実践がアリスメンディアリエタの思想に反映しているのである。だから、モンドラゴンに対してしかけられた二度の論争、（64年と70年以降、後者はバスク新左翼が相手であった）でも、彼は単に自己の過去の見解を守ることはせず、運動の発展に必要と見れば、相手の論議をも受け入れた。その結果、主として、バスク新左翼との論争の中で、革命の戦術を体系化していく。最後に、この体系を見ておこう。

5）日々持続する革命

　協同を団結で実現し、文化の社会化をはかって、日々革命を実践していると自負していたアリスメンディアリエタにとって、新左翼が主張した暴力革命による政治的変革は見込みない試みとしか考えられなかった。
　「瞬間的な打撃による革命の賞賛者や帰依者がある。その成功のために多くの好条件があり、またたとえ多くの人々の犠牲がなく成功する場合でも、革命は多くの他の人々が出発できるところから始めなければならない。われわれに必要なのは、展望のない計画や具体的な目的や効果的な貢献の要請のない計画を見分ける力である。使命と不屈さの能力をもって活動する人にとってそれは必要である。」（同、255頁）
　「革命は、一にも二にも人々とともに、または人々のために影響を与えようとする変化であり、代案である。多くの人々をたきつけ一時的でしかない革命は、いささかつくり話めいて少々喜劇的である。このような革命はわれわれに役にたたない。生活は過去・現在・未来の諸関係の織物であり、空虚からつくり出されるのではない。経験は他人のものでも自分のものでも、豊かなものであり、積極的な財産である。変革はもしわれわれが実際にそれを推進することを望むならば、強制されるべきではない。」（同、255～6頁）
　アリスメンディアリエタにとって、革命とは大衆が担えるものであり、かつ日々持続するものでなければならなかった。彼は一度も政治革命の立場に立ったことはなく、従って新左翼の主張をどこまで正しく理解していたかという点については疑問が残る。もし正しく理解していたら、彼の反論は、政治権力を樹立してから社会変革を始めるという戦術への批判へと進展されていたであろう。とまれ、大衆が担え、かつ日々持続していく革命について次のように提起されている。
　「革命が大衆全員により分担される変革の過程として、また大衆により十分に考察されて維持されるものとして確証されるにつれて、事実上、革命は最良の道であり、そこでは何も完成していないが、しかし、全ては望ましいものになる。固定化された世界は、人間的世界ではない。というのも、人間は超克の願望をもつ主体であり、それによって洞察と同様に活動的使命と運命ももつのである。変化する世界において完全で決定的な解決というものはない。世界は、人間がその中で優越性を示そうとするための多くの魅惑に満ちているのである。まさに、自分のために活動し、同時に活動的であることで自分の優越的な諸価値を確証するのであるが、それは、自然を耕作し豊かにするばかりでなく、自然を人間の必要と人間たちの共存のために調和することである。
　そのために必要なことは次のとおりである。
（イ）労働に参加すること。
（ロ）共同の利益のために必要な組織や適切な推進のための仕事に参加すること。
このためにわれわれは協同組合主義者に呼び掛ける。われわれは労働の各選択肢の応用をつくり始めている。われわれは労働者と連帯主義者は自然を変換できる者であり、自然の中で分担しあった力で新しい有用性を生み出すことができると確信している。しかし、それらの成果と有用性が配分や応用の最良の方法をもたない限り、われわれの活動は維持防御することはできない。」（同、266～7頁）
　この提起は、企業における協同の保障である投資を団結によって実現していく、という「もう一つの働き方」のキーポイントを念頭におかなければ具体的なイメージを結ばない。このイメージをつくるために、労働者への呼び掛けを紹介しておこう。
　「労働者よ団結せよ。付け加えるならば、労働者よ、今日あなたがたの労働と自らの管理が、あなたがたを無力にする疎外に陥ることのないために、不可欠な権力を強力に進めよ。あなたがたは自らを統治し運営する力をもたなければならない。協同は、直接的な真に責任ある活動により、常に外部の介入を排除するものである。あなたがたは全てを協同に向けなければならない。」（同、263頁）
　この呼びかけに、今日のわれわれは、心を躍らせることができるだろうか。もちろん、文字通りに受けとっても、それは死んだメッセージにしかならないであろう。ワーカーズコレクティブを目指そうとしている人々が、このメッセージを自分のものとして受けとめ、それを自分達の実践に活かそうとするとき、はじめて、連帯が生まれてくるだろう。この連帯にもとづき、「もう一つの働き方」を実現することを通した社会革命の戦術を自分達のものに仕上げていくことがいま、われわれに問われている。そのとき、次の問題提起が入り口となろう。
　「われわれは神話ではなく労働に基礎をおいた革命を必要としているのである。嘘や虚偽・過ちではなく真実の支援を受け、われわれは団結を達成しなければならない。現状の『消費のための消費社会』は、単なる物質的な幸福にわれわれを紛れ込ませる。その収支表には人間は物として記入されており、人格としてではない。われわれの間では、協同組合運動は、われわれを人格として呼び掛け支援し参加させる。したがってわれわれは、その指導性と責任の遂行とによって、われわれの創造的能力をその細胞から、あるいはその創造的労働の器官から引き出して企業をつくる。こうしてわれわれは、人間の尊厳と共同体の要請とに関連して、経済の新しい変革の活動を強調し、新しい社会ー経済体制を生み出すことができるのである。」（同、268頁）

6）モンドラゴンの普遍性

　アリスメンディアリエタの主張する協同は、共同体の内部にユートピアを創ろうとするものではなく、それを拠点に文化の社会化をはかり、社会全体を変革しようとする方向性を持っていた。
　初期のキリスト教的人間回復論は、労働における協同を団結の力で実現する、という社会的意識へと成長させられることによって、実践的なものとなった。
　労働の尊厳を協同によって実現させようとするとき、従来の階級闘争の中で試みられてきた労働組合運動や、政治闘争のための政党活動とは別の種類の階級闘争を切り開くこととなった。それは、協同組合企業で資本家的企業に負けない投資を実現し、経済競争の面で資本家的企業に打ち勝とうというものだった。
　企業における協同はこの目標を実現することにおかれ、ここから、協同組合企業の組合員が団結によって投資を積極的に進めることが一つの闘いとして、成立することとなった。
　そして、バスク新左翼との論争の中で、この一つの闘いは、「もう一つの働き方」を実現することを通した社会革命の戦術へと体系化されていく。
　このような新たな社会革命の戦術が、モンドラゴンで実践できたことは、もちろんバスク地方の特殊な諸条件にもとづいている。バスク民族の自決への意志、労働組合運動や新旧左翼の大きな影響力などによって、フランコ独裁下でもある種の解放区としてあったこと、それらがモンドラゴン協同組合群の戦術を支えてきたことは間違いない。
　しかし、モンドラゴンでの成功をバスク地方の特殊性にのみ求めることは出来ない。そこに、このもう一つの社会革命の戦術が体系化されていることを知るならば、その戦術がはたして、今日の世界で有効なものとして採用しうるかどうかについて検討することは、今や運動家にとっての義務となっているのではなかろうか。よく言われるモンドラゴンの普遍性なるものは、このような見地に立つことによってはじめて見えてくるだろう。
　そこでアリスメンディアリエタの戦術を検討してみると、実はそれが、社会革命への展望を持っているが故に、プロレタリアート独裁下の文化革命の路線として機能していたことが明きらかとなる。モンドラゴン協同組合群の成功の秘密は、プロレタリアート独裁の下における社会革命の戦術を、プロレタリアート独裁を実現する以前から実行していたことにある。この意味において、ポスト「社会主義」の社会運動としての普遍性がそこには存在している。

Date: 2006/1/5
Section: この15年間をふりかえって文献目録
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