1．ソ連共産党指導部によって開始されたペレストロイカの内実が明らかになりつつある．ペレストロイカが実現しするものは，従来，政治的・イデオロギー的支配の下に，全人民を階層に区分して，官僚制を社会のすみずみにまで導入し，国家制社会主義をつくりだした官僚階級の支配の様式を，所有にもとづく新たな支配の様式へと変更することである．それは独占資本の欠落した，官僚ブルジョワジー主導の国家資本主義への平和的移行である．

2．市場経済への移行を目指して，いま導入されようとしているものは，国営大企業の株式会社への改組による民営化，株式会社方式による商業銀行の創設，協同組合の形式を借りた資本家的経営の一般化，土地の株式化による私有化，証券市場の開設，労働市場の開設，などであるが，ノーメンクラツーラと呼ばれる70万の特権官僚は，すでに蓄積している財によって株やその他の債権に投資し，資本の所有者の階級へと移行するであろう．官僚階級のうち，テクノクラート層は，資本所有者としてのみならず，経営者として資本を人格的に代表するであろう．

3．党による国家と社会に対する一元的支配が解体され，議員選挙の自由化と政府諸機関の改組がなされているが，官僚組織は依然として，生き残るであろう．新たに形成されつつあるブルジョア階級が，官僚ブルジョア階級となる根拠は，生産手段の集中と労働の社会化がすでになしとげられ，それを総括する中央集権的な国家機関が存在しているにもかかわらず，独占大ブルジョアジーや金融資本が未形成だからである．

4，官僚階級の内から官僚ブルジョアジーの形成を目ざす勢力が登場し，力を増大させたことによって，官僚階級は分裂している．しかし，支配階級内部の分裂は非和解的なものとはいえず，官僚ブルジョア階級へと自らを形成しえない不満分子に対しては社会政策の面で譲歩することによって妥協することは可能である．
　官僚ブルジョア階級を目ざす勢力にとっての真の困難は，国営大企業の労働者から経済的特権をはくだつし，なおかつ機械が労働者を使うという資本の物象化を生産現場でつくりださねばならない，という点にある．
　保守勢力への妥協は，この困難を倍増させようとし，噴出している民族間紛争への対応の誤りなどから内戦状況におちいり，官僚ブルジョア階級の形成がなしとげられないという可能性も存在する．その場合，強権的政治が一時的に復活しようが，しかし，ソ連経済のブルジョア化は避けられない．

5．国家制社会主義の解体は連邦政府の弱体化をもたらす，各共和国，自治州の政治的経済的主権の回復を目指す努力がなされ，種々の運動が組織されている．国家機関の相互関係の自主的決定，住民の下からの連帯が日程にのぼっている．官僚ブルジョアジーをめざす勢力は，この方面ではヘゲモニーを掌握しえていない．

6．コルホーズ，ソフホーズからの農民の解放は保守派官僚への抵抗にあっている．何故なら，彼らの基盤は農村にあるからである．さらに官僚ブルジョア階級を目ざす勢力が現実的な農業綱領をもちえていないこともある．

オルタナティブの展望

7．ペレストロイカは支配階級が主導する社会革命の段階に到達している．市場の導入と国営企業の資本家的経営への転化が，官僚ブルジョアジーを目ざす勢力の目標である．
　国家制社会主義がゆきづまり，社会革命に向けたエネルギーが蓄積されていた．共産党によるペレストロイカの提起は，このエネルギーを解放した．しかし，国家制社会主義の下で，官僚階級によって，政治的，イデオロギー的に枠を入れられていた大衆は，官僚ブルジョアジーに対抗する組織と運動を持ちえてはいず，それの尻おしをしている状態にある．
　大衆が要求しているものは，国家制社会主義の完全な解体であり，抑圧的な国家機関の破壊である．ところが，その土台におかれるべき社会革命の内容については，いまだ合意が形成されてはいない．
　国家制社会主義を資本主義の方向へではなく，オルタナティブな社会革命へと導くための内実を明らかにすることが緊急の課題となっている．このオルタナティブな社会革命の内実を大衆がつくりあげ，それを実践し，運動体へと形成していくことによってしか，いわゆる下からのペレストロイカは実を結ぶことができない．

8．国営企業を中核とする国家制社会主義は，生産手段の集中と労働の社会化をすでになしとげている．これら国営企業群を国家機関によって管理する限り，官僚制は不可欠の媒介者であり，そしてやがては官僚制が社会の生産を支配し，労働者を搾取する支配階級へと転化する事態も生れてきたのである．
　官僚ブルジョアジーは，この国営企業を民営化し，資本の蓄積運動と市場での見えざる手による規制の働く経済へと形成することによって，国家制社会主義の革命を実現しようとしている．
　だが集中された生産手段と社会化された労働を包摂するためには，資本の側でも徹底した社会化が要求される．ここに，労働者を同時に所有者とする協同組合的経営導入の可能性が開けている．

9．協同組合的経営も多種多様である．オルタナティブの見地からすれば，生産手段の共同占有を実現しうる経営形態が追求されるべきであり，株式会社形態も含めたあらゆる企業形態を制定する基準はここに求められるべきである．
　国家制社会主義が経済的均衡を著しく歪めてしまったので，協同組合企業間の結びつきは当面市場によらねばならない．市場にもとづく限りは，ソ連国内に新たに形成されつつある資本制企業のみならず，世界の資本制企業との競争に耐えられねばならない．協同組合セクターは独自の金融機関と研究開発機関及び経営教育機関を形成することによって，資本との競争にそなえ，かつ，協同と共生の思想にもとずく新たな文化形成の運動の核を形成するための教育活動を展開しなければならない．
　エコロジー，反核，反原発などの地域の市民運動も，協同組合運動と結びつき，協同組合セクターが地域を制する状況をつくりだすことによって，社会革命の展望を手に入れることができる．
　ペレストロイカのこうした文化的亀裂をとらえるところにこそ，今日の国際主義は存在している．

B　解説

ソ連の階級関係

　ソ連の社会は，過渡期の国家的所有を掌握した党官僚が，これを意図的に固定化することによって自らを支配階級へと転化した国家制社会主義である．ここで国家制社会主義と呼ぶ体制は，官僚が支配階級に転化した過渡期社会である．この体制は対外的には社会帝国主義であり，東欧やソ連邦の周辺の共和国，さらには各共和国内の少数民族を帝国主義的に支配してきた．
　この国家制社会主義は，スターリンの下，30年代に成立したが，ブレジネフ時代にゆきづまり，今日，解体の危機に直面している．
　過渡期の国家的所有を実現したソ連では，生産手段の私的所有は廃止されている．直接的生産者は，国家を媒介にして生産手段と関係し，官僚は仲介者となっている．この仲介者が直接的生産者の統制から独立し，逆に直接的生産者を支配するための体制を段階的につくりだすことによって，官僚は支配階級に転化した．
　ソ連社会の所有形態は，種々の内実をもった諸占有として特徴づけられる．直接的生産者は官僚が階級に転化することによって，生産手段の共同占有者の地位を追われ，生産手段との相対的分離の関係を内実とする形式的占有者とされ，上位占有者である官僚階級による搾取を許している．
ソ連型システムの危機

　官僚階級による支配も，工業化と戦争遂行の時代には，その統治能力を発揮して，生産手段の集中と労働の社会化が実現された．
　では，この官僚支配下の国家制社会主義は何故ゆきずまったのだろうか．ペレストロイカが提起されて以降，，支配階級を代表するソ連共産党指導者自らが，「行政的社会主義」だとか，「指令社会主義」と呼ぶことになった．この国家制社会主義の下で進行したのは経済活動の停滞であった．ソ連共産党自身が認めているように，この体制は資本主義世界がおし進めた情報革命によって，その生産力の水準におけるもはや取り返しのつかない立ち遅れを知らされたのであった．
　官僚階級の支配を可能にしたのは，党による政治とイデオロギーの独占と，それを保障する社会の内部に植え込まれた抑圧機構にあった．スターリンは，粛清と強制収容所を手段にして，この機構を植付けたのであった．
　この機構の下で，労働者と農民は階層に分化させられ，それぞれが役人になり切ることで，国家制社会主義は維持されてきたのであった．
　この総体的官僚制の下では，技術を革新し，生産力を増大させる試みすら，社会にふれる犯罪をかくごしなければならなかった．
　この体制の下で進行したものは，直接的生産者のサボタージュと，官僚階級の専横（役得としての収賄，国家からの盗み，特権を利用しての地下経済の経営など）であった．これは国家制社会主義の下での社会的危機を増大させ，官僚階級内部に改革派を生じさせ，ソ連はペレストロイカの時代に入ったのである．
　このペレストロイカの提起は，また，社会帝国主義の衰弱の表現でもあった．東欧諸国の自決をめざした民衆運動が急速に発展し，共産党支配が打倒され，移植されていたソ連型のシステムが打破された．
　こうした一連の事態によって明らかにされたのは，ソ連の指令的計画経済の破綻であった．国家制社会主義は，まさに，その根幹のところでゆきづまっていたのであった．
　ソ連の指令的計画経済は，物財バランス法にもとづき，経済活動全体の管理を企業の外部にある行政機関の指令によって行なう体制である．ソ連では今日でも，商品，貨幣を廃絶できていないが，このシステムは，商品，貨幣がはたす機能を国家機関の指令によって代行させるものであり，それに干渉しはしたがそれらを止揚しえるものではなかったのであった．
　ここで商品・貨幣関係は，社会や国家の行政指導によっては廃絶しえない，という問題が想起されねばならない．もし廃絶しえるなら，干渉は正当であっただろう．しかし廃絶しえないものに干渉しつづけた結果，経済における歪みと停滞をもたらしてしまったのであった．
　だから，官僚支配の危機に直面し，ペレストロイカでまとめられた共産党が，市場の再建へとむかわざるをえなかった根拠はここにある．
ペレストロイカがもたらすもの

　市場，民主主義国家，市民社会，これがペレストロイカの目標とされている．だが，東欧の経験からも明らかなように，現代の市場は，資本の蓄積衝動なしには機能しえないから，市場再建のためには資本を育成しなければならない．しかし，生産手段の集中と労働の社会化が高度になしとげられている社会で，しかも直接的生産者が形式的だとはいえ，占有者としてある社会で，生産手段から労働力を分離することによって資本を育成していく方向は，経済的発展法則に逆らう試みである．
　では，この目標をかかげたペレストロイカが，実際には何を生みだすであろうか．
　私的所有と資本家的経営の承認と合法化がなされたとしても，独占資本がただちに形成されるわけではない．つまり，国家的所有を解体して私企業にひきわたそうとしても，大企業の場合には，ひきとるべき大資本が存在していないのである．
　そこで民営化されるべき国営大企業の所有者に誰がなりうるか，と問えば，官僚階級がその中心的勢力とならざるをえないことが明らかである．それゆえ，国営大企業が株式会社へと転化される際に，官僚階級が株主となり，ブルジョア階級に変身して，企業を支配する，という構図がえがかれていることになる．
　とはいえ，この新生の官僚ブルジョア階級が，ブルジョア階級としての役割を果たすためには，生産手段が労働を吸収するという，生産過程における資本の下への労働の実質的包括を実現しなければならず，労働者の労働力を資本へと物象化させねばならない．
　丁度アメリカ大陸に上陸したばかりの資本が，物象化を実現するのに苦労したように，ソ連においても大企業を資本制的企業として経営するには多くの困難がひかえている．
　明確な事は，官僚ブルジョアジーが，大企業を経営していくためには，資本制的外被を徹底して社会化することをせまられる，ということである．企業の労働者自主管理から，協同組合的経営に至る多様な経営形態が試みられることとなろう．
過渡期社会における社会革命の基本的原則

　最後にペレストロイカ期のソ連において，オルタナティブな社会革命を実現するための実践の指針となるべき基本的原則を提案しておこう．

1．生産手段の共有にもとづく協同組合的社会を実現することが，社会革命の目標である．

2．ソ連の現存の生産手段の国家的所有と農業の分野におけるいわゆる集団的所有を協同占有にむけて改革するための過渡的手段が追求されねばならない．その形態は，株式会社を労働者自主管理で経営する，といった低次の形態から，労働者の集団的持株制や民主的な生産協同組合に至る多様な形態が存立しうる．

3．社会革命の中核は，協同と共生の原則にもとずく生産協同組合にある．現実に活動を展開している協同組合の成熟度をはかる基準は，生産手段の共同占有である．

4．協同組合セクターの形成にむけ，連邦的規模では協同組合が経営する商業銀行を創設し，各協同組合の金融的指導に当らせる．地域的規模では各種生産協同組合と消費協同組合を結びつけ，市民生活における地域自給経済を形成する．

5．各協同組合は共同で教育機関と研究機関を創設し，技術と思想と文化の創造を促進する．

　以上の基本原則をふまえ，当面の方針が決定されるべきである．とりあえず，いくつかの点について明らかにしておこう．

1．市場の導入．商品・貨幣関係は，国家機関による計画化や，その他の法律的，行政的方法では廃絶しえない．官僚階級による長期にわたる支配のもとで，ソ連の国民経済はいちじるしい不均衡状態にあり，かつ，経済管理のための巨大な国家機関が形成されている事を考慮すれば，自由市場の導入による均衡の回復と，国家機関の縮小が必要である．

2．国家機関の民主化．共産党の指導的役割を否定し，基本的人権を保障する．抑圧的諸機関に対する住民による統制．

3．各種国家機関の解体．国民経済の計画と管理のために形成され，市場の導入とともに不必要となる諸機関を解体し，協同組合の銀行と商業機関へと再編する．官吏の再教育を協同組合の手で行なう．

4．政治の基準を文化におく．民族の同権は，社会的，経済的平等なしには空文句である．官僚階級を打倒し，形成されつつある官僚ブルジョア階級を統制するという，オルタナティブ派の政治的任務も文化の面で勢力の形成にかかっていることを理解しなければならない

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 5141 times

ペレストロイカについてのテーゼ

A テーゼ

ペレストロイカとは何か

オルタナティブの展望

B 解説

ソ連の階級関係

A　テーゼ

B　解説