　かたちの原語はエイドス、あるいはイデアで、双方とも「見られたもの」の意味ですが、エイドスは形相と訳されイデアはそのまま使われています。ところで存在を形として把握するということは、現代人の学問にとっては忘れられた方法ではないでしょうか。デカルトに始まるといわれている、自然科学の方法として常識となっている主客二分とそれに基づく分析的方法が現代人の思考から「かたち」にこだわる思考法を追放してしまったのでしょう。

　主客二分を前提とした分析的方法とは、単純化して言えば、全体としての自然から、人間、それも意識だけを主体として取りだし、そして取り出された意識が主体としてその他の自然（人間の身体も含む）を分析し、自然の法則を探究していく、というものですがこのような近代の科学知が、科学技術発達の原動力となり、そして、技術の力で労働の生産力を飛躍的に発展させ、都市化され工業化された社会を作り出したことで、それが知の王者として君臨している、という現実があります。そして、そのことによって現代人はこの科学知が、実は非常に危うい社会を作り出してしまった、という自覚をうすうすもちながらも、そこから抜け出す方向性をいまだ獲得できてはいません。そのようなとき、存在を「かたち」として把握するという忘れられた方法の現代的再生を追及していくことには大事な意義があるように思えます。

２）「かたち」が存在の原理

　「存在」が「かたち」として把握されたということについて、加藤はその内実を次のようにまとめています。

「（a）『かたち』はそれぞれのものを『一つのもの』『まとまったもの』『全体』とする秩序であり、『きまり』である。それぞれのものは、一つのもの・まとまったもの・全体であることにおいて、そのものとしてある。すなわち、『かたち』とは存在するものが存在することの原理なのである。『かたち』が存在の原理であることを確認することによりギリシア哲学は成立した。」（16頁）

　自然をまずは物質と捉える今日の科学的世界観からすれば、「かたち」とは刻々とうつろいゆく儚いものですが、他方で変化しないものは、物質の質と見られています。例えば、大理石の石像があるとすると、古代ギリシアでは、その物質が大理石であるということには関心が向けられず、石像の「かたち」のほうに思考における注意を集中させていたのですね。大理石の塊が石像へと彫刻されていくときに、その「かたち」はもともとイデアとして彫刻師の頭の中にあり、その可能態が現実態へと転化することで石像が完成される、といった「かたち」の形成に注意が払われていたのです。しかし今日の科学では大理石の物質的化学的組成について注意が払われても、その石像の造形については科学知からはみ出したものとして扱われてしまいます。ですから、ギリシア哲学の発想は科学知に囚われた現代人のそれとはぜんぜん異なるものだ、ということになります。

３）「形相語」と「分類語」

　このようなギリシア哲学の発想からすれば、名称の使い方も現代とは異なってきます。

「『かたち』を表わす名称と『類』を表わす名称との違いに注意する必要がある。前者、すなわち『形相語』と、後者、すなわち『分類語』の違いは、前者が第一次的に存在にかかわり、存在するものを掴み出す働きをもつのに対して、後者はこの第一次的な存在の掴み出しを前提にしたうえで、存在するものの間の共通性を析出し、統括するという点にある。前者を『具象語』、後者を『抽象語』と呼んでもよい。両方とも『一般的なもの＝普遍』にかかわる『一般語』『普遍語』であるが、存在へのかかわりという点でのその機能は著しく異なっている。古典ギリシア哲学、とりわけ、アリストテレスによって明確にされたこの区別は近代以降の哲学では失われている。」（16～7頁）

　ここで加藤が「形相語」と名づけているものは、例示すれば人とか馬とか蝶とかであり、他方「分類語」と名づけているものは、動物、哺乳類、霊長類といったものですが、「かたち」についての思考を失った現代人にとっては、人とか馬とかという名称に特別の注意を払わず、動物とか植物とかの分類語のほうに注意を払っていて、人も人類という分類学のイメージで捉えてしまいます。これでは、人のイデアや馬のイデアがあって、現実の人や馬が生成される、といった発想を受け止める余地はありません。

４）イデア＝エイドス論の発想

　ではイデア論が唱えられるようなギリシア哲学の発想はどのようなものでしょうか。

「（b）それぞれのものは『かたち』として存在することにより、そのもの自体を示現する、われわれに対してはそれぞれのものの存在が現われる。存在が『顕わになる』、すなわち、存在事物の示現、現象ということがギリシア哲学の中心にある。
（c）『かたち』は『見られるもの』『見えるもの』である。それゆえ、それは、まずは『外形』である。しかし『外形』をある定まった外形として定めているものは、それぞれのそのもの自体の存在である。この存在の内的な『かたち』がエイドスである。それは存在を存在として形づくる、存在の内的な『きまり』である。」（17頁）

　先に科学知は自然を物質と捉えると述べましたが、このことは存在するものの形を抽象して、その内実に還元してしまうということをもたらします。これに対して、ギリシア哲学では「かたち」を存在が示現されるものと見なしていたわけですから、存在の質料よりも「かたち」（形相）の方が、より本質的なものと捉えられています。そして、イデアは、存在の「かたち」を作るものとして、「かたち」の本源的なものとされるのでした。

５）理性の役割

　イデア論が語られるような哲学の地平では、理性もまた、今日考えられるような観念として措定されているわけではありません。

「（d）この存在の内的な『かたち』『きまり』を掴むものは『理性』と呼ばれる。あるいは、存在の内的な『かたち』『きまり』がそこで顕わになっているところが『理性』であるといったほうが正しい。これに対して、理性という一つの能力があり、この能力によって人間は存在の内的な『きまり』である『かたち』を把握するという言い方は二次的である。むしろ、われわれが存在の現象に立ち会っているということ、すなわち、存在がわれわれに対して示現してきているということが原‐事実なのである。そしてこの存在の現前している場所、それが理性と呼ばれるのである。……存在の内的な『きまり』にかかわるのはノエイン（ヌースはその名詞形）という働きである。存在の内的な『きまり』は見えないものであり、これにかかわるのはイデイン（見ること）ではなく、ノエインである。ヌースは直観と翻訳されることがあり、そこからギリシア的精神の彫塑性が語られたことがあるが、それは一面的である。ノエインは視覚よりも嗅覚に関係して理解されるのが正しい。それは存在にかかわる一種の嗅覚として、ものの全体的なあり方にかかわり、全体的なあり方を嗅ぎわける働きなのである。」（18～9頁）

　理性というと、現代では個人に属する能力で思考能力を指します。しかし、近世の哲学では、ヘーゲルを紐解くまでのなく、理性は意識の一階梯であり、しかもこの理性は、意識を意識する意識（自己意識）の産物でありながら、決して、主観的なものに止まらず、客体的な対象の本質的な内容としても位置づけられていました。またもう少し時代をさかのぼってスピノザの言うところを聞けば、意識とは神＝自然の属性でした。

　この時代までは、意識とは神的なもので、完全な意識は神にしか属しておらず、人間は神から不完全なそれを分有しているというように考えられていたのです。加藤はギリシア哲学にあっては存在の属性として、存在そのものがノエインし、人間に対して立ち現れる、というものだったと見ていますが、このことは、意識は自己意識とは捉えられず、また思考も人間の属性とはみなされていなかった、ということではないでしょうか。

　それはさておき、理性（ヌース）の働きという意味のノエインが、見たり聞いたりするという意味ではなく、嗅覚に関係しているという加藤の説には非常に興味を覚えます。つまり理性が捉えるものは、視覚や聴覚といった次元とは別のところにある超感覚的なものだという予感があったのでしょう。もちろん嗅覚それ自体は感覚ですが、嗅ぎ分けるというような働きは、五感を超えた働きを比喩しているように思われるのです。

６）フユシスとしての存在

　人間の意識が、主体として、理性を働かせるのではなく、存在そのものが、理性的な働きを持っていて、その働きが理性として人間に示現される、というとき存在そのものの把握もまた特有なものだったということになります。

「それぞれのもののそのもの自体としての存在をフユシス（自然本性）という。それはそれぞれのものの存在の内的な『かたち』『きまり』である。自然本性は運動、変化、生成に関係してではなく、持続して自己を保持する存在の意味で理解されるべきである。」（19頁）

　ヘーゲルは、精神現象学で、自我と対象との関係としてある意識について、人間の意識の発展過程を想定し、そこから対象の本性としてある概念とは何か、ということについて解明しようとしました。概念とは意識の一階梯ですが、それは単に人間が観念のうちで組み立てたものではなくて、対象の本性そのものが思考のうちで捉えられたものであり、それ自体（概念）は客体的なものでした。

　ギリシア哲学では、人間の意識の発展段階は、アリストテレスの『魂について』で素描されていますが、でもアリストテレスの魂とは万物に備わるものでした。人間の前に圧倒的な迫力でもって開示される自然界の変化の過程において変わらないものとは何か、このことの探求からは、フユシス（自然本性）とは「かたち」や「きまり」としてあり、科学知が自然を捉えて自然の運動法則を見出すようなものとは別の世界が開示されているのでした。

７）魂、生命、身体

　ノエインが、フユシス（自然本性）を嗅ぎ分ける働きであり、それによって掴まれたものがイデアとして、客体的な理性としてある、といった世界観は、また、魂についても独自の理解とセットになっています。

「『魂』（プシケー）とは生きているものにおいて、これを生かしているものであり、『生命』（ゾーエ）の元である。『身体』に魂が加わるとき、『身体』は『生きているもの』、すなわち『生き物』になる。生きていることにおいて、存在するものの『かたち』が現前しているとき、そこにノエイン（理性的把握）がある。生きているものは、そのとき、『理性（ヌース）を得る』という。それゆえ、ノエインは生きていることにおいて、あったり・なかったりするものである。そこで、もしも、ノエインしているものがわれわれ自身であるとすれば、このノエインの主体としてのわれわれ自身は、ただ生きているだけのわれわれ自身、つまり、魂を持つことによって『生きている身体』であり、『生き物』であるだけのわれわれ自身とは別のものであると考えられてくる。つまり、ノエインするわれわれ自身は、生きているわれわれ自身の、いわば外に出るのである。『脱自』ということがそこにある。このいわば『身体』の外にでている、ノエインするわれわれ自身において、存在するものの『かたち』が現前する。そこに『美』がある。『美』とは存在がわれわれ自身に現前する際の形式、すなわち、存在の輝きである。『理性の現実的活動』ということがそこにある。」（20～1頁）

　魂という言葉は今日では比喩的にしか使われず、心という意味になりますが、科学の世界では、心という言葉は身体と対比して人間の精神的な領域を指します。そしてそれは脳の精神的な働きに還元されていきます。これに対して、ギリシアでは、魂は生命の元だというのです。

　現在では生命の元はといえば、DNAだという答えが返ってきますが、これも「かたち」を質料に還元する考え方ですね。もちろん現在でも、宗教やオカルトの世界では、魂は不滅で、身体が死んでも、それから抜け出して、また別の生命となって生まれてくる、という考えは保存されています。でも現在ではこのような考えは理性的把握ではなく、信仰と見なされます。

　これに対して、魂を持つことによって生きている存在そのものが自らをノエイン（理性的把握）することで、存在するものの「かたち」が現前してくる、という考え方は、ひょっとして、形態規定の考え方の始原かも知れません。商品の価値形態にあっては、諸商品は自ら抽象し、判断する概念的な存在であり、その概念的な構成は関係における形態規定の働きによるものでしたが、ギリシア哲学の魂論に、宗教やオカルトとの類似を見るのではなく、文化知としての発想を読み取ることが必要なのかもしれません。

８）「かたち」と言葉

　存在そのものが概念的だとしたら、それについて語る人間の言葉や意識は対象そのものの代弁だ、ということになります。

「『かたち』の顕現に立ち会う者は、自己のうちに掴まれたものを語り表さざるをえない。語り表わすとは、顕現しているものが一定の『かたち』であることをそれに応ずる一定の言葉として語り表わすことである。それは存在の顕現に立ち会っている者がそれに立ち会っていることを自ら確認し、おおやけに証言することである。『語る』とは発語することである。発語するとはある種の音声を発することである。それは発声器官の運動を伴っている。」（21～2頁）

　このような考え方からすれば、プラトンが本当のところは言葉では表現できない、と考えていたことがよく理解できるのではないでしょうか。存在の概念的内実がイデアとしてあり、そして、そのイデアが顕現することで人間に発語を迫るのですね。このような発想は、前回検討した井上忠の言語がすべてである、という言語観とはまるきり逆ですね。

９）存在が言葉の住処

　では、存在の概念的な内実がイデアとしてあるとき、その顕現はどのようにしてなされるのでしょうか。

「存在の顕現に立ち会い、存在の分節を掴むのはノエイン（理性的把握）の働きである。しかし、ノエインの働きが語ることになるのは生きていることにおいてである。すなわち、魂が身体の内にあり、身体が生きているとき、そして、この生きている身体においてノエインの働きが現成するとき、『語る』ということが生ずる。『語る』ことは、それゆえ、身体の内なる魂において、存在の顕現ということがあるとき、この存在の顕現の呼応として成立する。言葉は魂の『孕むもの』といわれるが、それは身体の内にあるものとしての魂の孕むものであり、すでに何らかの『肉化』を含むのである。」（22頁）

　身体が魂を与えられて生きているとき、この生きている身体にノエインの働きが魂に呼応して言葉になって現れるという考え方からすれば、ハイデガーのように、言葉を存在の住処と見なすことは転倒されねばなりません。逆に存在こそが言葉の住処であり、言葉が肉化したものとしてあることで、存在を魂が掴んでいるのですね。

10）対話の原理

　ギリシア哲学の特徴をこのように述べてきた加藤は、最後に対話ということの意味について次のように述べています。

「言葉は語り出されていることにおいて、語られるものそのものの自体へとかかわっている。それゆえ、言葉はそれを語る人のうちにも、聞く人のうちにも『それが何を語っているのか』という問いを生む。このことにより言葉は語る者と聞く者を問いのうちに置く。問いは答えを生み、答えは問いを生む。」（22頁）
「問いと答えの運動によって人は己のかかわらしめられている『あること』の内に引き入れられ、『あること』そのもののうちに固められる。そこに真実が生まれる。真実とはその場その場での存在の輝きではない。真実とはあることの持続する示現であり、人のあり方を決める、徳としての知を生む。?このことのうちにギリシア哲学の展開があった。」（22～3頁）

　言葉が存在のうちに住まっていることで、はじめて、人と人との対話の原理が展開されていきます。逆にハイデガーの考えているように、言葉が存在の住処である、とするならば、対話は成立せず、ハイデガーがライフワークとしてきた形而上学批判という意図にもかかわらず、存在についての真理を言葉の中に求めるという形而上学的探求に止まらざるを得ないでしょう。

第２章プラトンのアカデメイア

１）プラトン第7書簡

　加藤はプラトン研究の専門家ですが、これから検討する第７書簡についてはその内容を絶対化する立場を批判し、対話篇のうちにプラトンの真意を探ろうとしています。しかし廣川洋一は、プラトンをアカデメイアの組織者として捉え、プラトンを実践家として位置付けることで、第７書簡の意義を浮かび上がらせています（廣川洋一『プラトンの学園　アカデメイア』講談社学術文庫）。プラトンの第７書簡に当たってみましょう。

「しかし、たしかにこれだけのことは?わたしが心を砕いている事柄に関して、わたしからでもほかのひとたちからでも教わって、あるいは自分自身が発見したつもりで、知識を持っていると称しているかぎりの、すでに書物を書いたか、これから書こうとしているひとたちのすべてを指して?言明できます。すなわち、これらのひとたちは、少なくともわたしの判断では、肝心の事柄を少しも理解している者ではありえない、と。実際少なくともわたしの著書というものは、それらの事柄に関しては、存在しないし、またいつになってもけっして生じることはないでしょう。そもそもそれは、ほかの学問のようには、言葉で語りえないものであって、むしろ、生活を共にしながら、その問題の事柄を直接に取り上げて、数多く話し合いを重ねてゆくうちに、そこから、突如として、いわば飛び火によって点ぜられた燈火のように、魂にうちに生じ、以後は、生じたそれ自身がそれ自体を養い育ててゆくという、そういう性質のものなのです。」（『プラトン全集』第14巻、岩波書店、147～8頁）

　ここでプラトンは、自らが書いた対話篇について自分の考えを述べています。つまり、対話篇の中には、「わたしが心を砕いている事柄に関して」は書いていないというのです。というのも、そのような事柄は言葉で語りえないから。ではこの事柄はどのようにして伝えられるのでしょうか。それは共同生活をし、その事柄に数多く話し合いを重ねていくうちに、そこから突如として、飛び火によって点ぜられた燈火のように魂のうちに生じ、そして生じたそれ自身が、それ自体を育てていく、というのです。

　これは伝染によるひろがりですね。文化はこのような形でひろがりますが、プラトンの場合は、文化というより、哲学を実践として捉えていて、実践知の伝達として、このようなイメージを描いたのではないでしょうか。

２）実践知としての哲学

　書き物によって伝えることが出来るのは学説ですが、プラトンが追求していたものは、学説ではなく、哲学を実践知として捉えていて、この実践知を伝えようとしていたのですね。

「先に挙げられた『示し言葉』や『定義』や『視覚』や『感覚』などのそれぞれが、相互に突き合わされ、好意に満ちた偏見のない吟味にかけられ、反芻される。また対話者双方が腹蔵のない問答をかわす。そうするうちにやっとのことで、個々の問題について思慮と知性的認識が、人間にゆるされるかぎりの力をみなぎらせて、輝き出す。」（154頁）

　プラトンが追求した哲学に限らず、何かの実践を共同で試みようとする場合、当然にもこのような問答を必要とします。その場合、書かれたものは、実践の指針としてあるにしても、それがトータルな実践知である筈はなく、日々の時間の進行とともに、たえず再検討されていかねばなりません。だから、プラトンは物を書く、ということにも次のように注文をつけています。

「いやしくもかってものを書いたり、ないしはこれから書こうとするに際して、もしそのなかに何か高度の確実性と明証性が存するとかんがえてそうするのであれば、その場合こそ、人が実際に非難を口にするとしないとにかかわらず、書く本人にとって恥ずべきことなのである」（この引用は廣川本、195～6頁）

　実践知には自然科学に見られるような確実性と明証性があるわけではありません。フユシス(自然本性)自体が捉えがたいものであり、言葉がそこに住まっているとしても、言葉では切り取ることの出来るのはごく一部分に過ぎず、しかもそれも誤解かもしれません。あるいは、これは真だと考えて、それを言葉にしたとしても、そうしたとたんに誤謬になってしまう、ということも考慮しているのかもしれません。

３）書物の限界

　このように哲学を実践知として捉えると、これを言葉で表現することには本来無理がある、ということになります。というのも、実践知として捉えられた哲学は生活を律することとなり、ある種の文化とならざるを得ないからです。

「心あるひとならだれしも、けっして自分自身の知性によって把握されたものを、言葉という脆弱な器に、ましてや取り替えもきかぬ状態に?とは、文字でもって書かれたものの状態に、ということだけれども?、あえて盛り込もうとはしないであろう。」（150～１頁）

　プラトンにあっては、知性は言葉で伝えられる法則や学説だけでなく、もっと幅広いものを把握するものと考えられています。今日では逆に、知性は言葉で伝えられるものについての知に限定されているので、このように言われると違和感が残るかもしれません。でも知性の幅を広げていくことは、非常に大切なことだと思います。

「およそ真面目なひとならだれしも、かりにも真面目に探究されるべき真実在について、書物を著わし、これを世間に投じてその猜疑と困惑に曝すなどということをするおそれはない。とすれば、以上からして、要するに、もし何びとかの手になる書物を、それは立法家の法令形式で書かれたものであれ、そのほかの文体で書かれたものであれ、とにかくどんなものにせよ書物を目にした場合には、いつも、こうと知らねばならない。つまり、書かれてある事柄は、筆者にとって、いやしくもかれ自身が真摯であるからには、なにも特に真剣な関心事ではなかったのであり、特に真剣な関心事は、むしろ、かれの内面の最も美しい領域に、どこともなく置かれてある。」（154頁）

　このような考え方について、加藤は、プラトンが対話篇を書いた理由として、対話篇の文字を追うことで、自身の関心事を理解し、自身と共に真剣な関心事について探究していくことが可能だと考えていたとみなしています。もちろん、このような考え方も充分成立し得るのですが、哲学を実践知として捉えるという考え方もありうると思うのです。

４）廣川の説

　廣川は、プラトンが書かれた言葉と語られる言葉について言及した文章を取り上げています。語られる言葉は「書かれた言葉と兄弟の関係にあるが、しかし父親の正嫡の子」「生命を持ち、魂を持った言葉」「書かれた言葉は、これの影といってしかるべきもの」（廣川本、197頁）というものですが、それを紹介したあと、廣川は次のように述べています。

「書かれた言葉が精神の内部に響きあう言葉にたいしてその影、似像であり影像にすぎないこと、すなわち真の熱情に値する原物にたいして、欠陥と限界を持つ模像であることが明確に認識されている。ものを書くという行為は、その主題の如何を問わず、また韻文、散文の区別なく、基本的にすべて似像、影像製作として把握されうる。このかぎりでは、書かれた詩も弁論も劇も論文も法律や政治文書も、プラトンの対話篇といえども、すべてひとしく書き物として認定され、影像製作にかかわるものとみなされるだろう。
　およそいかなるものであれ書き物が原物の模像であり影像であるのは明らかだが、にもかかわらず書かれた言葉の不完全性、不確実性、影像性が書いた本人においてよく自覚されているか否かは、書き物そのものの在り方にもなんらかの形で響いてくることがらだと思われる。書き物における不完全性、影像性、慰戯性を自覚するかぎりにおいてのみ、プラトンは書き物のうちに一定の意義を見出しているということができるだろう。」（廣川本、203～4頁）

　廣川によれば、プラトンの言語論は、言葉を原物の似像と捉えるものであり、それゆえ、語られる言葉が書かれた言葉よりもより原物に近いということになります。また語られる言葉にしても、不完全性、不確実性があるのは当然だ、ということになります。

　そうだとすると、プラトンは哲学を実践知と捉えただけではなく、言葉そのものの限界についての認識があったことになります。そこで廣川は書物を不確実なものと自覚していたプラトンが、なぜ対話篇を書いたのかについて考察しています。

「生命を持ち、魂のうちに響きあう言葉、をふたたび思い浮かべよう。それは、事柄をまともに知ることを意図して、ディアレクティケーの技術を用いながら?知的吟味と反芻、『ひとつの問題から他の問題へと、一段一段、行きつ戻りつ進んでいく』?ふさわしい魂を相手に得て、たがいの精神の内部にかわし合うものであった。これこそ真の熱情に値する原物に他ならない。書かれた言葉がいかなるものであれ、原理上すべて模像、影にすぎないものではあっても、プラトンがその影像性を充分に自覚した上で、詩や劇や弁論や論文の形式をふまず、あえて対話という形式を採ったには、やはり積極的な意図からであったと思われる。対話・問答形式による書き物こそは、プラトンにとってあの『真の熱情に値する原物』?知性の領域においてかわされるディアクレクティケー?におそらく最もよく似た模像であった。プラトンの内なる自覚はこの形式を必然的に選ばせたと考えられる。」（廣川本、205頁）

　廣川の主旨は明快で、まとめる必要もないでしょう。ここでは廣川が触れてはいない問題についてすこし考えることにします。言葉が似像である、という考え方はヒユシス(自然本性)をノエイン(理性的把握)する能力を持った存在と捉え、それ自身を概念的なものと捉えたことの帰結でした。これに対して、ハイデガーのように、これを逆転させ、言葉を存在の住処とみなすことは、人間のみを現存在(自己意識をもつ存在)とみなして、他の存在物が概念的存在であることを見ないという世界観に支えられています。いわゆる人間中心主義（ヒューマニズム）の思想がここにあります。

　ハイデガーは、プラトンこそが、西洋形而上学の出発点をなしているといって、プラトンのイデア論に批判的ですが、しかし、言葉の捉え方において、ハイデガーの方こそが間違いを犯していて、ここのところで、プラトンの真意を諮り損ねているように思います。

　プラトンのイデア論は、先にも少し触れましたが、言葉が持つ形態規定の働きについて明らかにしようとするものだったのではないでしょうか。ヒユシス(自然本性)について人間が理性的に理解しようとすれば、言葉によるほかはないのですが、この言葉でヒユシスを捉えるときに、ヒユシス自体を意識の化身にしてしまう、という言葉の働きについてプラトンは探究し、イデア論に到達しつつ、しかし、それを未完のままに残したというように見たほうがいいのではないでしょうか。

第３章竹田青嗣のイデア論解釈

１）現代思想の反プラトニズムへの疑問

　　竹田青嗣は『プラトン入門』（ちくま新書）で哲学者の間で通説となって通用している、「プラトンをヨーロッパ思想の創始者」と見るイメージを批判するところから論を説き起こしています。竹田によれば、現代思想によって捉えられているヨーロッパ思想とは「世界全体の摂理とそれについての絶対的真理が存在するという理念、またこの摂理と真理の根源をなす『超越的な実体』（超越者）が存在するという理念。このような理念のヨーロッパ思想における創始者がプラトンであり、またその完成者がヘーゲルだと見なされたのである。」（9頁）というもので、ニーチェやハイデッガーの系譜に連なる現代思想は、このようにプラトンの考え方を捉えてそれを批判してきたというのです。しかし、竹田はこのようなプラトンの理解、とりわけイデア論の把握は間違っているとみなしています。そして竹田は、一般的なプラトン理解について、次のように述べています。

「主として自然としての世界の『原因』や『原理』の探究を行っていたそれまでのギリシア哲学の思考に、プラトンは、『魂』の原理の探求という問題をはじめて導き入れた。彼は問答法という新しい方法によって、ソクラテス的な『いかに生きるべきか』という問いを、哲学原理の中心的テーマにすえた。つまり、プラトンは、従来の自然認識の問題を、精神、魂、徳、真、善、美、といった人間の生や価値の問題につなぎ、そのことではじめて人間の探究の学としての哲学の基礎を敷いた哲学者である……。だいたいこれが、ヨーロッパ"哲学"の創始者としてのプラトンの一般像だといっていい。」（11頁）
「仮象としての現実世界と、これに対する真実在としての『イデア』の世界。『真・善・美』のイデアの実在性。霊魂の不滅。天上界と地上界との間の永遠回帰……。こういうプラトン的世界像は、近代の自然主義的、合理主義的な世界像を逆立ちさせたような世界像だといえる。」（12頁）

　すでに加藤信朗によるギリシア哲学の特徴の紹介を見てきた私達にとって、このような捉え方は変だと思いますが、しかし、中世の神学の土台として引き入れられたプラトンのイデア論が、ここで紹介されているような理解であったこと（いわゆるプラトニズム）は間違いないでしょう。そこで竹田はこのような理解に対する自身の批判的見解について、次のようにまとめています。

「ここで、わたしのプラトン像の輪郭をできるだけ簡明に描くとほぼ以下のようになる。
(1) プラトンは、ヨーロッパにおける哲学という方法の本質的な意味での創始者だった。哲学の思考の本質は、それが『原理』の思考であり、かつ『普遍性』の思考だというところにある。また哲学の本質的なテーマは、人間の生の原理にかかわる。プラトンは、ギリシヤの哲学的思考にこの二つの根本性格を与えることによって、真の意味で、哲学という独自の思考方法の創始者となった。
(2) プラトンの中心思想はイデア説である。この考えは、見てきたようにしばしば、まず、彼岸の世界に実在する世界の秩序の最高原理と見なされ、つぎに、ヨーロッパの形而上学的志向、完全で絶対的な至高存在の思考（思想的プラトニズム）の原型である、として批判されてきた。たしかにプラトンのうちに『プラトニズム』の傾向は強くある。しかしそれにもかかわらず、この思想の核心は『普遍的思考』の本質的探究ということにあって、『プラトニズム』ということにはない。
(3) 思想の『普遍性』とは、しばしば誤解されているような、あらゆることに妥当する完全な認識や知のあり方、ということを意味しない。『普遍性』という概念の本質は、異なった人間どうしが言葉を通して共通の理解や共感を見出しうるその可能性、という点にある。言葉（論理）をどのような仕方で扱えば、この可能性の原理を捉えうるか。初期から後期にいたるプラトンの思考が一貫しているのは、まさしくこの課題の探究の軌跡である。
(4) プラトンにおいてそれは、まず言葉の『本質』の取りだし（問答法）という場面から出発し、イデア論や想起説という独自の形をとり、さらに後期における存在論的探究にいたっている。この作業によって彼は、それまでの哲学の思考の中に萌芽として存在していた『原理的』な思考と『普遍的』な思考という概念の核をいっそう深く掘り下げ、そのことで哲学という方法の創始を果たしたのである。」（15～6頁）

　このまとめで私が注目するのは、(3)と(4)です。ここで竹田は「普遍性」という言葉を「対的真理」や「絶対的知」というものと捉えるのではなく、人間の誰もが持っている思考の力に妥当する内実と捉えています。そして人間は、言葉を使えるわけですから、「言葉を通して共通の理解や共感を見出しうるその可能性」ということが普遍性の本質概念とされている点です。このような解釈は非常に優れたものだと思います。そこで、竹田がプラトンが一貫して追及したとみなしている「この課題の探究の軌跡」についてのあとづけを一緒に見ていくことにしましょう。

２）問いの意味

　竹田はプラトンの対話編が「～とは何か」という問いに対し、対話を通じていろいろな説明が与えられながらも、そのどれもが絶対的な回答として固定されてはいない、ということについて次のような独自の理解を示しています。

「初期対話編において、多くのソフィストや弁論家たちに対してソクラテスの優位があるとすれば、それはひとえに、言葉によってことがらの『本質』を取りだす方法についてのプラトンの思想的確信にかかっている、といえる。だが、注意すべきは、初期対話編では、それぞれの問いの明確な答えが示されるまではいたらず、ただ、ことがらの本質を取りだす本来的な可能性が示唆されるにとどまっている、ということだ。
　プラトンの著作の全体を通して、この『～とは何か』という問いはきわめて重要な意味をもっている。すなわちそれは、ソフィスト的な相対的言語使用に対抗する"本来あるべき"言語の使用方法として示されているだけではなく、同時にまた、『善』、『美』、『徳』といった、人間の諸価値の『本質』を洞察するための方法として提示されているからだ。」（121頁）

　竹田によれば、プラトンが提示する「～とは何か」という問いは単に問題にされているものについての理解や原因‐結果といった因果関係の解明にとどまるものではなく、つねに人間の諸価値の本質との関連を問うているというのです。この点について、竹田はもっと噛み砕いて、次のように述べています。

「何がある事物の『原因』といえるか、と問うてみれば、じつは観点を変えることでどんな答え方でもできることがわかる。そうであるなら、事実上のあるいは論理的な『原因－結果』の連関をどれほど詳しく追いつめても、それを真の『原因』と呼ぶことはとうていできない。それならどう考えればいいか。
　哲学者たちがかくも熱心にものごとの『原因』を探求してきたその理由は何か、と問うべきではないだろうか。人々はさまざまなことがらの『根本原因』を問うてきた。だが、それはなぜか。どこからその問いの動機の情熱が現れたのか。おそらく、『善く』生きたいとか『ほんとう』に触れたいという人間の欲求の本性が、それらの問いを作り出しているのだ。だとすると、真に探求すべきなのは、これまで哲学者が問うてきた『原因』それ自体であるより、むしろこの問いを動機づけている人間の欲求の本性それ自体ではないだろうか。」（166～7頁）

　つまり、プラトンが一貫して追及してきたものは、「～とは何か」という問いの原因それ自体であるよりも、この問いを動機付けている人間の欲求の本性それ自体だというのです。

３）善のイデア

　プラトンのイデア論が「真のイデア」ではなく「善のイデア」や「美のイデア」となっていることを踏まえ、竹田は「善」について次のように述べています。

「ちょうどアリストテレスにおいて『神』がその位置にくるように、プラトンの『善のイデア』もまた諸『原因』の系列の"最後に"位置する。しかしそれは、事物の存在や動因についての論理的な『因果』の系列として"最後に位置する"のではない。プラトンは、そもそもなぜさまざまな『原因』の観念が現われるのかと繰り返し問うた。そして、じつは『原因?結果』という視点それ自体が、人間が世界をある観点から眺めることから生じたものではないだろうか、と考えた。彼の『善』とは、いわばおよそ諸観点を作り出すその当のもの、を意味する。」（169～70頁）
「こうして、プラトンが『善のイデア』という概念でさしあたり示しているのは、『何が事物の根本原因か』ということの答えではなく、およそ人間が世界の諸事物を『原因?結果』という観点でとらえうるその根拠、なのである。」（170頁）

　カントなら、ここで竹田が述べている世界の諸事物を原因‐結果という観点で捉える根拠を、理性そのものに求めるでしょうが、竹田はプラトンの「美のイデア」は、人間の認識が成立しうる根拠の解明だというのです。

「さまざまな知の究極の根拠が『善のイデア』にあるとされること、これがおびただしく存在するプラトン批判の最大の論拠である。だがわたしとしては、まず、この一切の知の根拠をプラトンが『真のイデア』ではなく『善のイデア』と呼んだことに、重要な意味があると考える。そしておそらくこのことは、プラトンのいう『真なる知』が、『全知』や『絶対知』ではなく『普遍的な知』を意味していることをよく示しているのである。」（194頁）

　「善」のイデアに注目した竹田は、プラトンが真ではなく、善を選んだことの理由について、次のように述べています。

「さまざまな事物はそれぞれに『イデア』（＝本質）をもっているといわれる。つまり、机の本質は『書いたり食べたりできること』だったり、家の本質は『住めること』だったり、体育の本質は『健康』であったり、また健康の本質は『幸福』であったりする。しかしこれらさしあたり諸徳とは無関係のここの事物の本質も、じつはやはり同じ構造のうちにあることがわかる。『住めること』、『健康』、『幸福』ということは、それ自体が『最後の準則』ではない。『わたしにとって』、『人間にとって』、『生にとって』、"善い"といったことが、それらの本質を本質たらしめる。
　こうしてわたしたちは、プラトンの『善のイデア』という概念が、一つの独自の思想の表現であることを理解すべきである。すなわちそれは、『善い』ということの本質の深い理解だけが、諸徳の本質だけでなく、他の一切の事物の存在本質（＝形相＝それが何であるかを説明する根拠）を照らしうる、という思想である。プラトンが世の中の一切の事物がその存在と本質を『イデア』にあずかってもつと説いたのは、まさしくそのような理由による。」（197～8頁）

　このように竹田は「～とは何か」という問いから得られる原因‐結果や本質が、人間にとって善いかどうか、ということを明らかにするところにプラトンの真意があったと捉えています。

「要するに、彼の『イデア論』の基本構造は、あらかじめ世界の全摂理とそれについての全知が想定されているというものではなく、はじめに世界への"欲望とエロス"が存在し、これと相関的に世界が分節されているという欲望論的構造を示しているのである。」（201頁）

　竹田はこのように、プラトンのイデア論に「欲望論的構造」を読み取ろうとしているのですが、そのように読むためには、人間を自然と対立した一個の主体として措定することが必要でしょう。でもギリシア哲学にあっては、主体性は自然（ヒユシス）の方にあったのですから、竹田の読みはすこし強引ではないかと思います。

４）言葉の問題

　竹田はプラトン像の輪郭を述べた(3)と(4)で、ともに言葉に注目し、プラトンが言葉を「どのような仕方で扱」えばいいのか、とか「言葉の本質の取りだし」をしているといった判断をしていました。しかし竹田の著書で、この課題は余りきちんと触れられてはいないように思われます。竹田がプラトンの言語思想について言及しているのは言語論自体の非生産性ということです。

　「人々は多く、言語の本質を考えたり、その語源学や系譜学やまた論理学に熱中したりしている。しかし、大事なのは、そのことの中には哲学の本質的問題は存在しないということだ。何が最も深く考え詰められるべき問題なのか。思考がそこから逸れるとき、つねに言語や論理についての大騒ぎの議論が始まるのだ、と。」（106頁）

　このような竹田の記述を率直に読めば、言葉については、その本質や系譜学や論理学について考察しても仕方がない、というようにプラトンが扱ったということになります。竹田は別のところでは、プラトン独自の言語思想について次のように述べています。

　「人はしばしば、それを守れば『真の知識』にゆきつく言語使用についての厳密な規則があるかのように語る。また言語や論理の成り立ちを厳密に分析しつくせるものであるかのように語る。だが、『真の知識』にいたるための厳密な方法などというものは、ちょうど高度な体育の技術を論理的に説明しつくすことが不可能なように、論理的には説明しがたいものだ。あるいはまた逆に、これに絶望してそもそも『真の知識』といった考え方自体が虚妄なのだ、といいたがる。そういう言論に対しては、それらはただ、いかにパラドクスの難問を『通り抜け』られるかということだけを考え、その難問が現われ出る根拠自体に考え及ばないために言葉の本質を見損なっているということ、このことを的確に指摘しさえすれば十分である。『真の知識』のために厳密な方法があるはずだと考えること、また逆に、『真の知識』などどこにもないと考えること、この二つはじつは、言語についての同じ本質的誤解から生じたコインの両面である。そして、言語の普遍性の本質は、つねにこの二つの考えの"間"にある。そのことをよく自覚することが何より大事なのだ、と。」（291頁）

　このような竹田のプラトン言語思想の理解は、第7書簡に照らせばどのように評価できるでしょうか。イデア論に「欲望的構造」を見、そこに人間の主体性を仮託した竹田は言語の問題でも、語る主体を自然（フユシス）ではなく人間と見ている点で、やはり強引な解釈であるように思います。

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Author: admin Published: 2006/5/19 Read 14507 times

プラトンのイデア論（上）

第1章 ギリシア哲学の特徴

１）「存在」と「かたち」