第1章　伊坂青司の愛についての考察
　1）愛と宗教　2）愛と合一　3）外の主体の弁証法
第2章　久保陽一の合一哲学についての考察
　1）久保の問題意識　2）愛から意識へ　3）生の意識論への到達　4）今後の課題
第3章　意識論への歩み
　1）「1800年体系断片」2）差異論文
第4章　イエーナ体系構想での意識論の成立
　1）コーヒーブレイク　2）精神哲学草稿Iでの意識論の成立　3）意識の弁証法への歩み

第4章　イエーナ体系構想での意識論の成立

1）コーヒーブレイク

　『イエーナ体系構想』（法大出版会）について監訳者の加藤尚武は、ヘーゲルの著作のなかでもっとも完成度の高い文体で書かれていて「ヘーゲルの思索の跡をくっきりと残しているという点で、もっともすぐれた作品であり、今後のヘーゲル研究はこのテキストを中心に据えられることになると思われる」（252頁）と述べている。ヘーゲル自身が推敲を重ね完全な形で書いているという点で例外的な作品だ、というのだ。
　この加藤の解説に従って、まず精神現象学草稿Iから読み始めたが、そこで発見したものは、ヘーゲルの完成された意識論だった。ヘーゲルは『精神現象学』を書く直前に独自の意識論を完成させており、そして、現象学はまさにこの独自に捉えられた意識が自己をどのように現象させていくかを論じたものだ、ということが判明したのだった。そして、この意識の現象を意識の経験として叙述することのうちに意識の弁証法の展開を読み取ったヘーゲルは、この論理をギムナジウム論理学を経て、『大論理学』にまとめあげたのだった。一応このような筋が見えてきたので、ではヘーゲルはいつどのようにして独自の意識論を形成していったのか、に興味が移り、90年代に入って出版された久保陽一や伊坂青司や幸津國生や寄川条路らの研究を手がかりに意識論の形成過程をあとづけてきたのだった。
　そこで明らかとなった事柄は、初期ヘーゲルの弁証法は、アドルノの言う否定弁証法、あるいはレヴィナスが提示している外の主体の弁証法だった、ということだ。そして『イエーナ体系構想』も後で見るように、後年の意識の弁証法ではなく、意識の限界をふまえた否定弁証法が展開されている。そうだとすると『精神現象学』も基本的には外の主体の弁証法が適用されていると見た方がよいだろう。というのも、意識の弁証法は、やっと『ギムナジウム論理学』（海老澤善一訳、梓出版）で形成されるのであり、現象学では意識の弁証法が自覚的に適用されると見ることには無理があるからだ。
　こうして、前稿『ヘーゲル弁証法の転倒』で『精神現象学』のうちに意識の弁証法を読み取ろうとした努力が何故報われなかったのかが明確になる。何故なら、そこで展開されていたのは主要には外の主体の弁証法だったからであり、これはヘーゲルが後年体系化する意識の弁証法をたえず否定し、転倒させていくようなものなのだから。とまれ前稿では、結果的には『論理学』をとりあげ、そうすることでヘーゲルの意識の弁証法の転倒を行えて、それはそれで意義がある。ただし、残された作業として、先ず『イエーナ体系構想』からヘーゲルの完成された意識論を明らかにすること、次に『精神現象学』の弁証法を従来の研究とは逆に外の主体の弁証法の適用として読むこと、そして最後に、意識が外の主体の弁証法を経験することから導かれたヘーゲルの意識の弁証法の生成過程にその限界を探ることである。ではイエーナ体系構想の「精神哲学草稿I」を見てみよう。

2）精神哲学草稿Iでの意識論の成立

　『差異』論文で理性による絶対的なものと制限されたものとの合一という見地に到達したヘーゲルは、必然的世界と自由な世界の意識における合一を知と考えていた。そして、この知の実在性を、主観が主観的な主観－客観となり、客観が客観的な主観－客観になるところに求めていた。イエーナ体系構想では、これらの思想内容が精神の概念をなす意識一般という見地にまとめられている。

「精神の有機的構造を認識する時、われわれは意識を諸個人の単に内的なものとして認識するのではない。あるいは対立の両契機が諸個人そのものの内に現象するように、規定された諸概念としての特殊な諸対象に関係づけられるさまざまな能力や傾向性や情熱などとして認識するのでもない。そうでなくて、意識一般をその概念からみて個別性と規定された概念とが絶対的に一になっている状態として認識する時、われわれは意識の有機的な諸契機を、まさにそれらがそれら自身で絶対的な意識の諸契機として存在しているように認識するのである。すなわち、〈単に絶対的意識の一面である個体の形式において、情熱や衝動や傾向性などとしてあるような何か〉として認識するのではなく、絶対的に対自的にあるがままの、つまり対自的に自らを有機化し、こうして、もとより諸個人の内にあるがままの意識を認識するのであり、といっても直接的には諸個人の他面としての、彼らが個々人として自分を対置している意識を認識するのである。しかし意識とはそれら両側面の本質存在なのである。」（9～10頁）

　さて、ここでも『法哲学講義』のヘーゲルの口調を借りて解釈してみよう。人間の精神というものがどのようなものか、と考える時、われわれは意識を単に諸個人の内的なものととらえるのではない。あるいは、個別性と絶対性という対立の諸契機が、例えば生命の場合のように、諸個人そのもののうちに現象し、働くことや食べ物や社会的地位や異性といった色々な対象によって能力や欲望や情熱をもっている、そのような事態を知る、ということでもない。
　そうではなく、個別なものと規定された概念とは絶対的に合一されていることが意識一般であり、意識のうちにある色々な諸契機自体が、絶対的な意識の諸契機として認識することが肝腎なのだ。宗教的な境地に至る生の合一から生まれてくる意識ではなく、諸個人の内にあるがままの意識を、といっても彼らが他人に対して個々人として自分を対置している意識を認識することなのだ。このように解釈すると、ヘーゲルは、人間と神との関係から、人間と人間との社会関係へと転じていることがよくわかる。意識一般とは、人間の社会関係のことであり、これがヘーゲルの精神哲学の対象なのだ。
　では個別性と規定された概念とが、絶対的に一になっている状態とはどのような事態だろうか。

「意識の本質とは、エーテル的な同一性のうちに直接的に対立の絶対的統一があるということである。このことが可能なのは次のような時だけである。すなわち、意識が対立的に定立されている限りで直ちに、対立の両項が意識それ自身である時、つまりこの両項は対立項としての各々において、直ちにそれ自身の反対であり、絶対的な差異である時、すなわち両項が〔対立していながら〕単一である時だけである。」（11頁）

　ここでヘーゲルの意識論が成立している。ここで述べられている思想は『哲学入門』（岩波文庫）ではもっと簡明に規定され直されている。「意識一般とは、自我の或る対象――内的であれ、外的であれ――への関係である。」（14頁）あるいは次のようにも述べられている。「知識の中にある全体は対象だけでなく、知るところの自我でもあり、自我と対象との相互の関係でもあり、つまり意識である。」（124頁）　しかし詳細に見れば、イエーナ体系構想の規定と哲学入門の規定の間には大きな差がある。前者では対立する両項が主体であるのに、後者では双方の中間にある意識が主体とされているからである。従ってここでヘーゲル独自の意識論が成立したのではあるけれども、その成立は外の主体の弁証法の適用によって成し遂げられていることが判明する。

3）意識の弁証法への歩み

　ところが先の引用文に直接続く次の内容は、意識の弁証法への移行を示している。

「対立のこうした統一にあっては、〈自らを意識しているもの〉が対立の一面をなし、〈意識が意識している当のもの〉とは、ただ第三者にとってのみ意識のこの統一なのであって、両者それ自身にとってはそうではない。といのも、〈意識するもの〉と〈意識が意識しているもの〉との対立においては、一方はむしろ他方がそうであるところのものではないからである。つまり意識は自らを意識するものとして、意識としての、活動的で否定的な同一性としての己に基づいて存在し、しかもこの同一性たるや、それが自分とは異なるもの〔他者〕を意識するようになるということから自己の内に還帰し、また、他者へと移行することによってこの他者を止揚するからである。意識そのものはその本質からみても、また同じく両者〔意識するものとされたもの〕の〈止揚された存在〉であり、それ自身活動的なものとして、したがって止揚するものとして規定されている側面でしか現われない。」（11～2頁）

　ヘーゲルは対立する両極を主体（主語）として論を説きおこしながら、次に、自らを意識しているもの、つまり自我と、人間と意識が意識している当のもの、つまりは意識の対象とを同じ意識であるという点で統一されたものとみなしているが、しかし、この統一は自我にとっても対象にとってもそうではない、ということに注意をうながしている。つまり、それは自我でも対象でもない第三者にとってのみ、意識のこの統一があるのだ。
　ここではヘーゲルは第三者を明確に意識として記述しているわけではないが、内容的には意識を第三者としてあつかい、そして、意識を主体（主語）にして意識の弁証法を論じている。意識を主体とすると、意識は意識自身を意識するものとして捉えられ、そしてこれは一つの活動であり、しかもそれ自身をたえず否定していくことにもとづく同一性だ、ということになる。こうして両極が主体としてあったときの、両極の合一が意識である、という規定は転倒され、意識が両極を否定することを通して、両極を意識に止揚していくという論理が開かれてくる。その弁証法は、意識が自分とは異なるものである自我や対象、といった両極を意識することで意識自身に帰りながら同時に自らを他者へと移行させることで、両極をなす他者を意識へと止揚する、というわけである。
　でも、この時期のヘーゲルは、自ら切り拓いたこの意識の弁証法に安住しようとはしていない。引き続きヘーゲルは次のように論じている。

「意識は自分をただ意識として定立するだけで、〈自らが意識している当のもの〉として定立したりはしない。それゆえ意識は個別的で形式的で否定的なものでしかなく、絶対的な意識ではない。というのも、意識は、〈自分が意識している当のもの〉を自分に等しいものとして定立しないからである。つまり、意識はこの自己同等性をただ否定的な仕方でしか、すなわち、自分が意識しているこの当のものを自分と等しくないものとして廃棄するという否定的な仕方でしかもっていないからである。」（12～3頁）

　アドルノが論じた否定弁証法がここで述べられている。そもそも初期ヘーゲルが、外の主体の弁証法を叙述することが出来たのも、意識を否定するものとして捉えていたからだった。ところでアドルノの場合は、意識を否定するものとして捉えるだけでなく、〈自らが意識している当のもの〉の意識されない領域に合わせて、意識の方を否定することを要求している。そうなると、ヘーゲルの意識の弁証法自体が単純に否定されてしまい、意識を否定していく論理を紡げなくなってしまうように思われる。問われていることは、意識の弁証法を起動させながらも、外の主体を措定することで、たえず意識の限界を提示することだ。この見地からすれば、ヘーゲルは、ここで両極を主体とすれば、意識は個別的で形式的で否定的なものであり、そもそも意識は、自分が意識している当のものを自分に等しいものとして定立しない、と述べている。ヘーゲルは言及していないが、しかし、外の主体の弁証法という見地からすれば、自分が関係している当のものを自分に等しいものとして定立している場合がありうる。マルクスが明らかにしたように、商品の価値形態では、このことが起きている。
　このように意識に対してリアルに対応し、その限界がよく分かっていたヘーゲルにとって、それだけ一層「絶対的意識」への到達の欲求は高まっていく。続けてヘーゲルは述べている。
　「しかし意識は、それは自らを他者として対立的に定立する限りでしか意識ではない。したがって意識はこの〔廃棄された〕他者の代わりに〔また〕ある他者を、つまり自分と等しくないものを登場させねばならない。〔だが〕意識はこのような不等なもの一切を廃棄する。しかしそうすることによって意識が到達するのは、己自身の他者を常に自分の外部にもっている経験的で外的な無限性に過ぎない。しかしこうした経験的な意識は絶対的な意識でなければならない。言いかえれば、直接的にそれ自身の他者なのであって、この意識は自らの他者を〔しかも〕意識とこの他在との積極的な同等性を、意識それ自身の側でもっていなければならない。この意識が絶対的な意識になるのは、〔次のような場合である。つまり〕この意識そのものとは異なる他者が存在し、この他者がこの意識自身の完全な意識である時、つまり、〈それ自身だけでの存在〉もすべて、ありのままの差異もすべてなくなり、この意識からはただ他在の空虚で内容抜きの形式によって区別されるだけになり、そうして、この形式が、それば形式としてはかく内容をまったく欠いたものであるがために、一般にそれ自身において観念的でもある時、である。――これこそが意識の目標であり、絶対的な実在性なのであって、われわれは意識の概念をそこにまで高めなければならないのである。それが、〈絶対的に万人の意識である国民精神〉として意識がもっている全体性である。万人はこの精神を直観し、意識としてはそれに対立しているが、しかし同じく直接的に、この精神の内で自分の対立や自分の個別性を止揚されたものとして認識し、自分の意識が絶対的に普遍的な意識であることを認識するのである。」（13～4頁）
　ヘーゲルがここで意識の目標としている絶対的な実在性とは「絶対的に万人の意識である国民精神」であるが、これについては、これまで引用してきた部分よりも前に置かれている断片17で考察されている。そこでは精神の概念が「絶対的な個別性と絶対的な多数性との絶対的な〈一たること〉」（6頁）と規定され、この概念に照応したものとして国民の精神が考察されている。国民の精神とは「国民の諸々の個別性であり器官である諸個人のうちに存在するものとして絶対的なものであるとともに、まさにその点で彼らに対立したものとしても絶対的である」（7～8頁）。というのは、諸個人が「〈止揚されてあること〉の内にのみ、国民の生ける精神は存在する。諸個人が〈止揚されてあること〉が彼ら自身に自覚されている。国民の生ける精神は、それは個別的な精神であって、このように現象する限りでも、即自的に各人の意識である。それと同時にこの精神は、彼らから区別されたもの・直観可能なものとして、つまり、諸個人が現にあるのとは別の存在〔他在〕としても実在する」（8頁）からだ。
　ヘーゲルが念頭においている精神哲学とは、社会的意識の諸形態に他ならないのであるが、その一つの形態である国民国家を形成している諸個人の国民としての意識について、このように述べられている。諸個人の意識がそのありのままで国民的意識としてあることを見抜いたヘーゲルは、そのありようについて解明しようとしており、それを個別のものと絶対的なものとの合一したものとして精神を規定することから成し遂げようとしている。そして、現に国民は存在し、国民的精神も実在しているわけだから、これは意識が到達すべき目標とされるのである。
　そこで先の引用部分に戻ろう。ヘーゲルは断片17では、国民精神を諸個人の個別的な意識でありながら、それと同時にそれが諸個人が現にあるのとは別の存在として、絶対的に普遍的なものとして、直観可能なものとしてある、と述べていたが、ここでは「この意識そのものとは異なる他者が存在し、この他者がこの意識自身の完全な意識である時」と述べている。つまりヘーゲルは、人間の意識が個人の意識でありながらかつ社会的なものでもあること、この意識の二重性に気づき、この二重性にもとづいて、個別性と普遍性という対立の統一として意識を捉え、この統一の諸形態を、意識自体が生み出すものとして記述しようとしているのである。こうして、出発点と目標とが明らかにされた。ついでヘーゲルは、この統一を関係として捉え、この統一態そのものについて考察していく。

「意識は、普遍性と無限性という観念性、つまり対立している形式における単一なものの観念性である。意識は普遍的なものとしては観念性であって、そこに意識の反対定立が存在する。そして意識において区別された両者が互いに外在し、互いに切り離される。それゆえ、両者の統一は両者の間のひとつの媒語（中間）として、両者の作品として、すなわち両者がそこに関係づけられ、そこにおいて一体としてある第三者として、しかも同様に両者がそこにおいて区別される第三者として現われる。」（16～7頁）

　現代の関係主義の哲学は、実体か関係か、という二項対立を立てることで不毛な結末に陥っている。ヘーゲルは、ここで個別的なものと普遍的なものとの関係を措定しつつ、この関係のうちに媒語としての第三者が実在することを指摘している。意識するものと意識されるものとの中間に立つこの第三者こそが意識であると捉えることで、対立を統一している統一態が解明されていく。

「意識するものは、この媒語を自分から区別するのと同様に、意識において区別されたものから自分を区別する。〔ただし〕区別といっても、意識するものがこの媒語に両者を関係づけてもいるという区別である。絶対的な普遍性が媒語となるのはただ主体においてのみ、つまり対立を孤立させる点においてこそなのである。」（17頁）

　意識するもの、つまり人間は、意識を自分から区別するのと同様に、自分が意識によって捉えた対象からも自分を区別しているが、このような関係は、人間が意識でもって、自我と対象とを関係させるところに生まれるものだ。だからヘーゲルは、この媒語としてある意識に絶対的な普遍性が宿るのは、意識する人間が主体として現われて、個別者と絶対者との対立を孤立的なものとしてつくり出すときだとみている。このように考えるヘーゲルは、まだ媒語としての意識を主体とはせずに、対立している両極を主体としている。そして意識の領野の限界についてもわきまえている。

「意識が規定性としてあるのは、つまり、意識が媒語だからである。また、意識の、その諸契機の実在性における有機的構造が媒語としての意識の諸形式の有機的構造であるからである。意識はそれ自身で、絶対的に普遍的なものとして、単一なものとして、同じく己自身の反対になり、対立を通り抜けなければならない。言いかえれば、意識は所産〔において〕綜合的に対置されたものでなければならない。そして意識は、それが対立の内にあるものとして存在する限りで、規定されたものに他ならないし、意識の綜合の契機として定立されているだけである。言いかえれば、意識が実在するのは、それが〈自らを意識するもの〉と〈意識が意識している当のもの〉との両者が意識において一者として定立され、また両者が意識に対立もしているような場である限りのことである。すなわち意識それ自身がこのような仕方で規定性にとらわれた実在的なものである限りのことなのである。」（18頁）

　ここでは中間にある媒語としての意識、という実体的なもの、（但し、超感性的な社会的実体）を主体として措定しようとする試みが見られる。つまり、主体としての人間が規定する意識の規定性が「媒語としての意識の諸形式の有機的構造」へと外化されることで意識が主体化され、こうして、意識がそれ自身で絶対的に普遍的なものとして、それが己自身の反対である自我と対象という対立物を通り抜ける、と述べられているからである。しかし同時に、外の主体の立場から、意識の限界が明言されている。つまり、意識が主体として働けるのは、人間が意識している限りのことだ、というのだ。
　このあと、後年のヘーゲルからは消えてしまうが面白い着想が語られている。

「媒語としての意識の、先の最初の拘束された実在が、意識の存在としてみれば、言語、道具、そして財産である。あるいは単一な〈一たること〉としてみれば、記憶、労働、そして家族である。」（21頁）
　「意識はまず記憶、および記憶の所産である言語として実在し、悟性を通して、規定された概念の存在として、単一で絶対的な概念に、己れ自身の内への絶対的な反省、つまり絶対的な抽象という空疎な形式的能力になる。そして対立の関係は、即自的に相互に差異化されたもの同士の廃棄作用となる。理論的な過程は実践的な過程に移行する。この実践的な過程においても意識は同じように自らを形成して統合し、こうしてここで先の観念的な実在に対立する現実的な実在を獲得することになる。というのも意識は労働において道具という媒語になるからである。」（27頁）

　このような着想にもとづいて、このあとヘーゲルは、原現象学とも考えられる意識論を展開している。つまり、感覚と知覚についての記述が続いている。そしてそのあと言語についての考察がなされている。さらにそのあとには、後の法哲学としてまとめられる諸内容が取り上げられている。
　ところで今回の初期ヘーゲル研究の目的は、ヘーゲルが独自の意識論を打ち立てた上で、独自の意識の弁証法を論理学として構想し、叙述するに到る過程を探ることにあった。『イエーナ体系構想』はあまりにも興味を引かれるテーマが多く、ついつい誘惑されそうになるが、これまでの作業で、『精神現象学』の解読の手がかりは十分得られたように思われる。言語論については後日に期して、ひとまず稿を閉じよう。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2572 times

哲学の旅第9回 初期ヘーゲルの外の主体の弁証法 第4章

第4章 イエーナ体系構想での意識論の成立

1）コーヒーブレイク

2）精神哲学草稿Iでの意識論の成立

3）意識の弁証法への歩み

哲学の旅第9回　初期ヘーゲルの外の主体の弁証法　第4章

第4章　イエーナ体系構想での意識論の成立