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第5回レジュメ　市民社会の古典理論　2000年9月9日

ホッブズ（1588－1679）

　ピューリタン革命（1642－60年）を経て王政復古へと続く時期。

■ホッブズによるピューリタン革命の総括

　絶対的な主権の欠如、これを余儀なくした思想の対立、情念の沸騰に求めた。宗教の対立は善悪の判断を主観化し、個人の良心を絶対的な基準とする政治権力への抵抗を生み、平和に不可欠な主権の絶対性を損なった。

■社会契約説の最初の定式化

　支配者たる君主と被支配者たる人民の存在を所与とする支配－服従契約を排して、国家の設立をその構成員の結合契約にもとめる。
　政治権力を捨象した人間の自然状態をまず設定して、人間の本性を確定しつつ、そこから共通権力の必要を導き出し、ついで個々人の相互契約による国家の設立を論証する。

■人間論

　人間は自己保存欲につき動かされた絶えざる生命活動の過程に組み込まれた存在。
　認識能力を疑い、感覚的認識論をたてた。価値観のアナーキー、共通善や究極目標の否定。
　「万人の万人にたいする戦争状態」
　自然状態における人間は平等で自由な存在→不信を生み戦争状態に。

■自然権から自然法へ

　理性が示唆する平和実現としての自然法。

■国家創設の契約

　ある人（君主）あるいは人びとの合議体（議会）に契約当事者たる各人の人格を担わせ、彼らを代表して行為する権限を与えることを内容とする、各人相互の契約。主権者と人民とはなんら契約関係にない。主従契約の否定。
　抵抗権は排除されるが、保護と服従とは相関していて保護能力の喪失は服従責務を解除する。

ロック（1632－1704）

　ピューリタン革命（1642－60年）、王政復古（1660-1689）名誉革命（1689年）の時期

■自然状態論

　ロックの自然状態の特色は、自然権が自然法との相即において捉えられていること。
　自然状態は「平和と善意と相互扶助の状態」であり、ホッブズの戦争状態を否定。
　所有権を自然権として捉えていた。そして、貨幣も導入されていて、ロックの自然状態は政府を欠く市民社会。

■政治社会の成立

　自然状態では、自然権の享受は不確実。法の欠如、紛争の裁定者がいない、裁定を執行する権力がない。
　人びとに所有権（生命、自由、財産）の保護と外敵からの防衛という限定的な目的をもって、政治社会の形成に向う。自由な合意、相互の契約による。
　国民は信託者であり、受益者とし、政権を受託者とする。片務的な契約関係。信託違反を理由とする抵抗権、革命権の承認。
　ロックの政治社会は所有権の保護と対外的安全という限定された目的をもつ。国民の内面的な世界を支配することは許されない。

ルソー（1712－1778）

　1715～74年ルイ15世治下、1776年　アメリカの独立、1789年フランス大革命

■近代合理主義の批判

　ルソーの民主主義を支えているものは、民衆の理性への信頼ではなく、彼らの善なる本性への信頼であり、理性はそれ自体で道徳的にはむしろ人間を堕落させるとみた。

■自然の概念

　ルソーの自然状態は、家族を含めて一切の人間相互の依存関係を欠いた個々人が完全に孤立した状態として構想されている。
　自然状態をいわば人間が他者を認識する以前の状態として設定したルソーの意図は、そもそも人間が社会を形成することによって、その本性（自然）にいかなる変化が生ずるかを根底から問い直そうとする点にあった。
　理性、反省する能力は社会の形成によって生まれる。自然に反した状態である理性の行使を通して人間は堕落してきた。人間を苦しめる悪の原因が人間自身にある。人間は真に人間的な存在、自覚的に回復された第二の自然としての道徳的存在となることが必要。

■共同体

　ルソーの社会契約は、個人の権利の完全擁護であることが特色。ルソーの意図はあくまでも堕落した人間を善なる存在へと導くことにあり、政治を通してこの目的を集合的に達成することが、社会契約論の主題であった。

エンゲルス（1820－1895）

　史的唯物論の立場から、国家の歴史的な発生について、社会の下部構造の発達から説いた。

ヂュルケム（1858－1917）

　「社会的事実」についての定義を与える。モースをへて、レヴィストロースにつながる。

B）展開

ホッブズの社会契約（P115）

　あらゆる権力と力を多数決によって、すべての意志を一つの意志とできるような一人の人、あるいは合議体に与えること。

ロックの政治社会（P100）

　他の人と結んで協同体を作ることに同意すること、
　政治社会を開始し、実際に構成するものは、多数決をすることのできる自由人が、このような社会を結成するのに同意することに他ならない。（P103）

ルソーの社会契約

　社会秩序は自然に出来上がるものでなく、約束にもとずく。
　各構成員は自分のもつ一切の権利とともに、自分を共同体全体に対して完全に譲渡することである。（P28）
　われわれおのおのは、その身体とその力のすべてを共同にして、一般意志の最高指揮の下にゆだねる。さらに、われわれが、政治体を形成するものとして、各構成員を全体の不可分な部分として受け入れる。（P29）

ヴァジニアの権利章典

　人は生まれながらに自由かつ独立し、生来の権利をもつ。（所有権、生命と自由の享受）（　天賦人権）
　権力は人民に由来する。（主権在民）
　政府が目的に反するとき、廃止できる。
　三権分立
　自由な選挙
　罪刑法定主義
　言論の自由
　マルクス
　社会契約説は、ブルジョア社会のなかで始めて形成されたブルジョア的個人を、自然状態における人間と見ている。社会の上部構造は下部構造から説明すべき。人間の解剖はサルの解剖に役立つ。価値形態論の意義。

エンゲルス

　氏族社会から、家族、私有財産、国家が発生してくる過程を明らかにした。しかし、生産の発展が生産関係を　変革する、とする史的唯物論の立場にこだわり、階級の消滅について、楽観的見通しを述べている。

デュルケム

　社会的事実
　「個々人の意識の外部に存在するという顕著な属性を示すところの行動、思考、そよび感覚の諸様式が認められるわけである。
　これらの行為や思考の型は、たんに個人に外在するばかりでなく、個人の欲すると否とにかかわらずかれらに影響をおよぼしてくるような、ある命令と強制の力を付与されている。」（P52）
　社会と個人、双方とも自然、個人よりも社会が優位にあるから個人は社会に従っている。

C）飛　躍

1）科学知の限界

　社会契約説は、科学以前の段階のものだが、封建社会の社会観に対するイデオロギー的批判として有効性をもっていた。それは商品、貨幣、資本がつくり出した生産関係が生み出すイデオロギーの諸形態としてあった。従ってその基本的内容は、ブルジョア国家の憲法に採用されている。
　社会契約説に対する批判は、一つは「社会主義は科学になった」と主張したエンゲルスの史的唯物論からなされ、もう一つは、社会学を学問として確立しようとしたデュルケムからなされている。
　これら科学知の限界に対しては、マルクス主義の側からは主体性論が台頭し、社会学に対しては現象学、実存主義が台頭した。いずれも個人が生きていることの意味を問うていた。

2）エコロジー的知性

　1960年代後半からエコロジー台頭することで、人間の社会や国家についての新しい捉え方が提起された。
　動物や樹木に権利を認める立場
　世代間倫理
　共生の思想
　ラディカルデモクラシー

3）何が問われているか

　メルッチ「人は自分たちに与えられた生存の型を越え出ようとする意志も持っていて、この宿命についての自覚が現在芽生えつつあります。……史上始めて、社会は自らが偶然性にさらされており、永続的な再編成が必要なのだということを感じ取っているのです。社会運動はこうした偶然性にさらされているという意識の上に成立してもいれば、それを強めてもいます。社会運動によってこそ、種としての人類を創造もすれば破壊もできる、我々のあの能力に対する自覚が研ぎ澄まされるのです。私たちは前例のない状況を生きています。このような権能を自らに行使した社会など、かって存在したことがありませんでした。私たちの未来はいまや、専ら自らの選択と決定に委ねられているのです。」（『現代に生きる遊牧民』P307-8）

D）展望

1）社会や国家も日々作り出されている。

　貨幣が日々作り出されているように、社会や国家や民主主義やイデオロギーも、日々作り出されていることを示すこと。

2）関係知としての文化知

　そのためには、関係知について解明できない科学知を越えて、関係知解明の方法＝文化知を明らかにすることが問われる。

3）社会的無意識の定型化

　社会はデュルケムが述べているように、個人の行動を拘束する。この意志支配の様式が社会的無意識の内実である。

4）新しい社会としての協同主体の形成

　メルッチの提言を受け、新しい社会運動は、新しい社会を形成しようとするものだとすれば、そのための要点はどこにあるか。
(1)民主主義すら生成できなくなっている現状があることを認めること。このことは、資本の商品化による架空資本の蓄積が優位になった社会の成立と関連している。民主主義をどう形成するかは公共空間論だけでは不十分で、その土台に協同主体の形成がすえられるべき。
(2)協同主体の多様性と主体相互のコミュニケーションを可能とする技術的土台（　IT革命）の上に、LETSが生まれたことの意義を明らかにすべき。
(3)社会形成の第一歩は他者との対話から始まる。主体性論や実存主義ではなく、対話論で生きていることの意味を問うことが課題となっている。

Date: 2006/1/5
Section: 第2次PC講座レジュメ集
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第5回レジュメ 市民社会の古典理論 2000年9月9日

第5回レジュメ 市民社会の古典理論 2000年9月9日

ホッブズ（1588－1679）

■ホッブズによるピューリタン革命の総括

■社会契約説の最初の定式化

■人間論

■自然権から自然法へ

■国家創設の契約

ロック（1632－1704）

■自然状態論

■政治社会の成立

ルソー（1712－1778）

■近代合理主義の批判

■自然の概念

■共同体

エンゲルス（1820－1895）

ヂュルケム（1858－1917）

B）展開

ホッブズの社会契約（P115）

ロックの政治社会（P100）

ルソーの社会契約

ヴァジニアの権利章典

エンゲルス

デュルケム

C）飛 躍

1）科学知の限界

2）エコロジー的知性

3）何が問われているか

D）展望

1）社会や国家も日々作り出されている。

2）関係知としての文化知

3）社会的無意識の定型化

4）新しい社会としての協同主体の形成

第5回レジュメ　市民社会の古典理論　2000年9月9日

第5回レジュメ　市民社会の古典理論　2000年9月9日

C）飛　躍