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第4回レジュメ　グローバル・デモクラシー　2000年7月8日

I）武藤一羊著『ヴィジョンと現実』（インパクション出版会）

1）グローバル・ガバナンス

　「どこにも単一の世界政府はないのですが、それでもさまざまな決定のレベルと多様なアクターを含むグローバルな権力構造として一つのガバナンスを形成しています。」（24頁）
　グローバリゼーションの下での権力関係としてのグローバル・ガバナンスに代わる「グローバルな民衆自治」「それは国民国家内部の民主主義に解消されない世界構造における民主主義、世界民衆の自己統括」（25頁）

2）グローバル民主主義

　「私の基本的な視点は、制度的な側面と主体の側面とを一つの視野のなかで検討したい。」（26頁）越境する参加民主主義、世界構造の民主化の過程、民衆の国境を越えた連合、国境を越えた民衆連合（主体）。
　制度的側面は？
　権力奪取ではない。
　支配的統治でなされている決定の多数の結節点を民衆の影響力の下での決定の場へ。下からつくりかえられた決定の結節点との結びつけ。

3）制度的な側面

■デーヴィット・ヘルドのコスモポリタン民主主義。地球議会と多様で重複する権力法センター
■武者小路公秀、新世界立憲秩序。四つのレベルの区別；国家間システム、国連システム、国際市民社会、底辺社会。

4）主体としてのピープル

　国際市民社会（開発NGO，女性運動、労働運動、その他NGO）と底辺社会の民衆の連合はいかにして可能か。多数の文化の相互作用を通して生成してくる主体を、グローバル民主主義の主体としてのピープル、民衆と考える。

5）討論

■武藤の主体のイメージ……自律した個人が連帯して民衆連合をつくる。
■中村尚司「ピープルというのは個々の自律した存在というよりは、どのように他の人と結びついているか、その結びつきが問題である。存在より関係が先立つという形での民衆概念の構成。」（178頁）
■武藤：ピープルの集団が関係しあうことで相互に内部変革をする。それぞれが違った個性を自覚する個人が自立してくる。
　あと、ナショナリズムに立たずに国家の責任を如何にして批判しうるか。
■古田：70年代以降の主体はシングルイッシュー。市民とかプロレタリアートといった主体のモデルに入りきらない人々、そういう人々が出てきた。「いつもどんどん変わっていくんだけど、そういう多様であり変わっていくような人々の運動を総称するときに民衆、ピープルと置く、……新しい主体の立て方が必要」（184頁）
■青山：関係が先、と言われるとひっかかる。自分を変えていく契機は重要。

II）斎藤日出治著『国家を超える市民社会』（現代企画室）

1）序文の提起

■動員の世紀からノマドの世紀へ
　20世紀は国民国家による市民社会の動員体制。フォーディズム。都市化と消費社会の進展。
　「国境を越えたグローバル化と情報化の進展は、20世紀の国民国家による動員体制を次第に突き崩そうとしている。地域レベル、国際レベルで、国民国家の主権に対峙する複合的な新しい主権が誕生する。」（10頁）
　「新しい社会形成の担い手」「自己反省能力をはらんだ個人」（10頁）
　市民権の再審「今日では、法的に同等な個人の存在を承認する政治的権利よりもむしろ、人々の異質なアイデンティティや差異を承認する政治が求められ、これらの承認と平等とをいかにして両立させるかが問われている。
　国民国家という枠の中で論じられていた市民権や民主主義が自己反省能力をもった個人の視点から再定義される。

III）斎藤日出治「消費社会の物象化と生活者」（『社会運動』2000年1月号）

1）60年代と大衆消費社会

　大衆消費社会での欲望のかぎりない増殖は、資本と国家による欲望開発の戦略に、消費者が組み込まれることによる。
　消費はけっして個人的・私的な過程ではない。消費の過程を通して社会化され、集団として組織された。
　社会的な強制としての消費。
　この過程は、生活者が生活主権を失っていく過程。
　休まずせっせと働いて賃金を稼ぎ、稼いだ賃金で消費財を購入して消費する、というライフサイクルの確立。
　生活過程において市場経済の価値がもっぱら優先され、共同生活に必要なその他の価値はないがしろにされるようになる。
　大衆消費社会の到来とは、資本による生活世界の全面的な支配を意味した。
　　　※この「支配」の意味をはっきりさせる必要がある。
　　　　要するに資本の再生産過程にほとんどの生活領域が組み込まれてしまった、ということ。

2）フレキシビリティ戦略と柔らかい個人主義

　80年代から消費様式に大きな質的変化が起こる。
　企業は新しい需要を掘り起こすため、消費財を多様化し、製品を差別化する戦略に出る。
　群衆から分衆へ。個人のパーソナリティ形成を重視する柔らかき個人主義。
　製品の多様化戦略は、企業の生産過程を変容させた。在庫管理の変化。マイクロエレクトリックスの情報技術が生産に導入される。（ポストフォーディズム）
　これは資本による生活世界の支配をさらに深めることになった。マスマーケティングからパーソナルマーケティングへの転換を図る資本の戦略は、資本による人々の欲望の回路の支配を決定的なものにした。
　社会生活にとって必要な公共的・共同的な欲求が、消費財に対する個人的な欲求へとますます誘導されていく。
　身体を癒す、学習する、食生活、子育てなどが、資本の市場に組み込まれる。
　情報技術の発展は、人間のコミュニケーション能力を飛躍的に高める一方で、人々のコミュニケーションを寸断し、諸個人を分断する。家族のコミュニケーションをいちじるしく衰退させる。

3）ナルシズム型個人の登場

　人々とのコミュニケーションではなく、物の購買と消費を通して自己のアイデンティティ形成を図るナルシズム型個人。個性的な消費は個人の個性を育むものではなく、逆に、ひとのコミュニケーションを物へと後退させ、ひととひととの関係を物に置き換えることによって、ひとを規格化する。物象化現象。

4）個人の自己内省力

　ナルシズム型個人の急増とコミュニケーションの閉塞は、物に依存し物を通して自己の個性をたしかめる物象化された自我を生み出したわけですが、この消費様式は、その反面で、個人の自己内省力を育み、物に依存した自己を批判的にとらえかえし、他者との関係を反省する新しい可能性をも生み出しています。

　その可能性
(1)情報通信機器を通し、個人の情報処理能力が高まっている。個人が行政組織や企業組織から自立する可能性。
(2)消費者が生産に能動的に介入する可能性。市場経済における生産と消費の分離を乗り越えていく可能性。
(3)空間移動能力が高まったことで、ひとびとが自らの地域空間や居住空間に対する内省力を強めつつある。
(4)様々な文化産業の発展は、消費者の美学的、知的な内省力を育んでいる。
(5)生産過程においても、個人の内省力が要求されるようになる。

　今日の資本蓄積と経済成長は、しだいに個人の自己内省力に依存するようになってきた。……このような内省力をはらんだ個人がやがて自らが資本の価値創造の契機となる事を拒否して、資本の運動に対して批判的な姿勢をとる可能性も、同時に生まれてきている。

5）新しい社会運動の登場

　新しい社会運動とは、自己内省力を持った個人が資本や国家に抵抗する運動。階級や集団をあらかじめ前提とし、その利害を主張するのではなく、集団としてのアイデンティティそのものが問い直されている。
　国民とか市民という同質の集団の中にかき消されていたエスニシティ、ジェンダーの多様性が浮き彫りにされ、少数民族や女性や障害者や同性愛者が、自己のアイデンティティを主張する運動が、新しい社会運動です。
　自分とは何者であるかを考え直す。この問い直しが集団の再定義を生み出す。新しい社会運動では、集団よりもむしろ個人が紛争の場となっている。個人の生命・意識・欲望をめぐって紛争がくりひろげられる。かって個人が私的な領域にゆだねられていた事柄が、今日では政治の課題となり公共の議論となっている。
　個人の自己内省力は、消費の領域でも、分断されていたコミュニケーションをとりもどしつつある。人々が他者とのかかわりを通して自己形成することの重要性を感じている。個人の内省力の発展は、消費者が狭い消費の過程を越え出て、労働と消費の循環の過程に介入し、そのあり方を変えようとする消費者運動を生み出している。

6）市民社会の多元化

　新しい市民社会の可能性。市民社会とは、万人による万人の闘争で社会が崩壊してしまわないよう、そこにおける利害対立を制御し調整する公共的・共同的な空間のこと。国家機関の肥大化によって市民社会が圧殺されてきた。これに代わる自己内省的な個人と、この個人が育む新しい社会関係によって築き上げられる市民社会。
　市民社会とは、諸個人を市民という同質の存在と見なして市民の権利を承認する世界であるよりもむしろ、諸個人の多様なアイデンティティ形成の権利を保証する場とならなければなりません。
　諸個人の差異は、私的な事柄であり公共の課題ではなかったのですが、それが公共の課題として登場します。
　諸種の差異を互いにどのように平等主義的に結びつけるかを考えること、これが新しい民主主義の課題となる。

7）21世紀における生活世界の復権

　国民国家のゆらぎによる国民＝市民という同質の主体の解体→諸個人の差異の承認が政治の課題に。
　消費の個性化→自己内省的個人のフレキシブルなアイデンティティ形成とコミュニケーション。
　市民社会は、いまや政治社会と消費社会の双方から、新しい主体と新しい公共空間の形成に直面している。
　新しい市民社会の構築は、その逆にひとびとの生活世界によって資本の蓄積の運動を制御し、市場と国家を生活世界の中に埋め込んでいく方向性を指し示しています。多元的民主主義と自己内省的な消費者によって資本の蓄積を共同でコントロールしようとする運動。
　社会的責任投資の運動。
　社会的経済。

8）産業空間の転換

　大企業中心からもう一つの産業集積地の形成。地域のコミュニティ空間の重要性の再評価。
コミュニティビジネスとLETS

9）自由時間・環境・人権・ふれあいに価値基準を

これからの消費者運動の課題
(1)自己内省力を生活世界の再建に
(2)地域コミュニティ、及び、南を含めたグローバルな世界に開かれた運動を
(3)生活者の多元性を考慮した運動をどのようにつくり上げるか。

IV）武藤説へのコメント

1）グローバルな民衆自治

　武藤の場合、政治的なものしか視野にない。
　「国境を越えた民衆連合」は経済のシステムがそのままで可能なのか。
　自立した個人の連合という主体のイメージは「自立した個人」が幻想であることによって崩壊してしまう。経済システムの変革と主体の形成と、グローバルな民衆の生活世界の形成とを同一物として捉えることが必要。

V）斎藤説へのコメント

　「自己内省力をもった個人」をキーワードとして、新しい社会運動を展望しているが、それはそんなにたよりになるのか？むしろ、自己内省力をもった個人を形成していける仕組を提示することが問われているのではないか。

VI）今日の課題

　今日、人々は民主主義すら生み出せなくなっている。それは、民主主義闘争が衰退したことによる。その結果、公共空間の必要性が提起されるようになっているのではないのか。
　斎藤の言う「ナルシズム型個人」とは、貨幣所有者の自己意識だとすると、現代社会の諸個人が民主主義すら生み出せなくなっている理由が解る。何故なら、貨幣は民主主義の底辺ではなく、頂点に立つものであり、消費者は王様という言葉は、単なる企業の誉め殺しの戦術ではない。
　諸個人が皆、貨幣の自己意識を持ち、自らを王様と意識すれば、実は諸個人が自身を国家として意識していることにならないか。

Date: 2006/1/5
Section: 第2次PC講座レジュメ集
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第4回レジュメ グローバル・デモクラシー 2000年7月8日

第4回レジュメ グローバル・デモクラシー 2000年7月8日

I）武藤一羊著『ヴィジョンと現実』（インパクション出版会）

1）グローバル・ガバナンス

2）グローバル民主主義

3）制度的な側面

4）主体としてのピープル

5）討論

II）斎藤日出治著『国家を超える市民社会』（現代企画室）

1）序文の提起

III）斎藤日出治「消費社会の物象化と生活者」（『社会運動』2000年1月号）

1）60年代と大衆消費社会

2）フレキシビリティ戦略と柔らかい個人主義

3）ナルシズム型個人の登場

4）個人の自己内省力

5）新しい社会運動の登場

6）市民社会の多元化

7）21世紀における生活世界の復権

8）産業空間の転換

9）自由時間・環境・人権・ふれあいに価値基準を

IV）武藤説へのコメント

1）グローバルな民衆自治

V）斎藤説へのコメント

VI）今日の課題

第4回レジュメ　グローバル・デモクラシー　2000年7月8日

第4回レジュメ　グローバル・デモクラシー　2000年7月8日