2002/06/20　megumi
　惠です。私の「疑問」は、吉原さんへ当てたものではなく榎原さんへの「要望」でした。私は、彼の著述に30年余にわたって学んできており、手短な・はしょった表現で十分意思が伝わると考えていました。コメントを戴いてみると、このような場では、不適当であったと思います。そこで改めて、論争に参加させていただこう……とコメントへの返事を書いてみました。

1.私が、物神性について述べた理由

　かってリカード派であったマルクスは、自身への反省をも込めて次のように書いたと思える。

「生産価格は平均利潤を含む。われわれは、これに生産価格という名を与えた。それは、アダム、スミスが"自然価格"と名づけ、リカードが生産価格・"生産費"と名づけ・重農主義者たちが、"必要価格"と名づけるもの―そのさい、彼らのうちのだれ一人として・生産価格と価値との区別を展開しなかった―と事実上同じものである。なぜなら、生産価格は・長期間について見れば、供給の条件であり、特殊な各生産部面の商品の再生産の条件だからである。
　また・労働時間による・諸商品に含まれている労働分量による、諸商品の価値の規定に反対するその同じ経済学者たちが、なにゆえつねに市場価格が変動する中心として生産価格について語るのかということの・その理由もわかる。彼らがそうしたことをあえてすることができるのは、生産価格が・商品価値のすでにまったく外面化された、また"明らかに"没概念的な形態だからであり、競争において現われているとおりの、したがって凡俗な資本家の意識のなかに、したがってまた俗流経済学者の意識のなかに現存するとおりの形態だからである。」（資本論3巻　P339　10章　新日本出版9）

　この意識についてマルクスは説明している。

「資本主義的生産の場合には、商品形態で流通に投下された価値総量と引き換えに、他の形態－貨幣の形態であれ他の商品の形態であれ―での等しい価値総量を引き出すことが単に問題なのではなく、生産に前貸しされた資本のために、それがどんな生産部門で使用されていようとも、同じ大きさの他のどの資本も引き出すのと同じ―またはその資本の大きさに"比例した"―剰余価値または利潤を引き出すことが問題なのである。したがって、少なくとも最低限度として、平均利潤をもたらす価格すなわち生産価格で諸商品を売ることが問題なのである。資本は、この形態において自分自身を一つの社会的な力として意識するのであり、それぞれの資本家は、社会的総資本のなかの自分の持ち分に比例してこの社会的な力に参加するのである。」（同上P334）

　生産価格には、ある社会的力がもたらす社会的意識が、含まれているのです。

　このような課題を抱いているならば、価格＝価値として、論理を出発できないのは明らかです。

「かくして、価値の大いさの規定をもたらしたのは、商品価格の分析にほかならなかったし、商品の価値性格の確定をもたらしたのは、諸商品の共同的な貨幣表現にほかならなかった。だが、商品世界のこの出来あがった形態―貨幣形態―こそは、まさに、私的諸労働の社会的性格を、したがってまた私的労働者たちの社会的諸関係を、明示するかわりに、物象的におおいかくすものである。……略……この種の形態が、まさにブルジョァ経済学の範疇を形成する。それは、商品生産という、この歴史的に規定された社会的生産様式の生産諸関係にたいする、社会的に妥当な・つまり客観的な・思想形態である。」（資本論I第4節商品の物神的性格とその秘密　河出版P69）

　商品価格の分析による「価値の大いさの規定」をしていたのが、リカード価値論であることでは、合意できるはずです。マルクスは、古典派の経済学的諸範疇を革命する絡みで、商品の物神性に論及したのです。そして、リカード流の労働価値説（生産価格　生産費＝価値）では、利潤と剰余価値の混同をもたらし、学説の基礎・価値をも危うくしてしまう事は、よく知られているのではないでしょうか。

2.マルクスの以上述べた物神性について

　貨幣形態は、貨幣とされる一商品が、社会的労働の化身としての自然的属性を纏って現れ、その姿のままで、他の諸商品との関連を結んでいると、私的生産者の目に映じている。すなわち、人々の社会関係が、物と物の関係と見なされ、この関係は、貨幣（価格）の同質性の表現である価値に因するものと見なされる。そして、人々は、作り出された言語と同様に、価値とは？……と訊ね・労働をえた。（スミス・リカード）しかし、人々のこの分析は、分析の条件・その形式に規定されたものでしかない。
　だからマルクスはこう述べた。

「その逆である。彼らは、彼らの相異なる種類の諸生産物を交換において価値として相互に等置することによりて、彼らの相異なる諸労働を人間的労働として相互に等置する。彼らは、それを意識してはいないが、そうするのである。」
「労働諸生産物は、それらが価値であるかぎりでは、それらの生産に支出された人間的労働のたんに物象的な表現である、という後代の科学的発見は、人類の発達史において時代を劃するものではあるが、しかし決して、労働の社会的性格の対象的仮象をおいはらいはしない。」（同上P68）

　ありていに言えば……労働生産物が、その《本質》の人間的労働力一般の支出の意義において価値属性となる（「対象的仮象」を、本質の実在とする取り違え）と見なさざるをえない必然性が、物神性である。無意識の内にしてしまった私的生産者の本能的行動の成果を問う形式として、交換される労働生産物の本質を、人は、訊ねたのです。マルクスは、意識の転倒などの問題を一般的に扱ったのではなく、価格の分析から価値を導きだす形式との関連で、その事を訊ねた。そして、ブルジョア的労働が、人間的労働力一般の支出の形態をとるのは、労働生産物の本質（人間社会の非歴史的な社会的生産過程の本質）ではなく、物象の社会関係を媒介とする特定の歴史的な人間の社会関係のもたらす必然性――だと明らかにした。

　過去労働+生きた労働＝商品の価値量という方程式は、成立しない。
　〈生きた労働は、流動的なもの・,生成しつつあるもの……つまりは、可変量である。尺度すること自体が成り立たない。吉原さんは単純労働という、社会的平均労働の単位だからと抗弁する。モダンタイムスにあらわされた工場内での哀れな労働者の具体的な単純労働ではなく、社会的な平均的な生産諸条件での単位となる労働だから、今日の、トヨタのラインで働く労働者と、チャプリンとを比べる事をが許されるなら、もはや、それは、単純労働ではなく、屑箱でしかないだろう。〉成立しないものを成り立つかに想像したのは、二つの種類の労働を本質である人間的労働力一般の支出に還元しているから。同様、資本の生産過程で生産される商品の示す社会的労働（観念的な価格に表示される貨幣量の表す価値は、「抽象的・社会的な労働一般」――DK6章不変資本と可変資本P169河出）と、資本論1章1・2節での価値に表示される労働＝私的労働とを本質に還元しているから……2つの差異を消したのです。

3.マルクスのリカード批判――学説の基礎・価値をも危うくしてしまうとの論証――剰余価値学説史・第15章「剰余価値に関するリカードの理論」に拾ってみる。――

その1「彼は、利潤の諸法則を直接に、媒介項なしに、剰余価値の諸法則として示そうとしている。」（学説史P261国民文庫5）

その2　リカード学派解体の根拠「問題はまさに、なぜ労働と、この労働がそれと交換されるところの諸商品とは、価値の法則に従って、交換されないのか？ということである。問題をこのように提起するならば、それは――価値の法則を前提する限り――それ自体解決不可能である。というのは、労働そのものが商品に、すなわち一定量の直接的労働そのものが一定量の対象化された労働に、対置されるのだからである。
　リカードの説明のこのような弱点こそが、われわれがのちに見るように、リカ―ド学派の解体を促進し、また、ばかばかしい仮説を生みださせることになったのである。」（同上P306～307）

その3　内在的価値尺度と外在的価値尺度の混同.
「労働――彼とリカードが言っているとおり、労働は「諸商品の価値の基礎」であり、一方「それらの生産に必要な比較的労働量」は「相互の交換において与えられるべきそれぞれの財貨の数量を決定する基準」であるが（リカード）つまりこの内在的価値尺度と、外在的尺度である貨幣とを混同している。この貨幣は、すでに価値規定を前提しているのである。」（同上p314～315）

　このような文脈に置かれると次のプルードン批判が思い起こされる。

「労働時間が価値の内在的尺度であるのに、なぜそれとならんでもうひとつの外在的尺度があるのか？なぜ交換価値は価格に発展するのか？なぜすべての商品がその価値をひとつの排他的な商品で評価し、こうしてその商品が交換価値の恰好な定在に、すなわち貨幣に転化ざれるのか？これこそグレイのとかなくてはならなかった間題であった。それをとくかわりに、かれは.商品が社会的労働の生産物として直接たがいに関連できるものと想像する。
　けれども商品は、ただあるがままのものとしてたがいに関連できるにすぎない。商品は、直接には、個々別々の独立した私的労働の生産物であって、この私的労働は、私的交換の過程において脱却する〔譲渡される〕ことによって、一般的社会的労働であるという実を示さなければならない、いいかえれば商品生産を基礎とする労働は、個人的労働の全面的な脱却〔譲渡〕によってはじめて社会的労働となるのである。
　しかしグレイは、商品にふくまれている労働時間をそのまま社会的なものだ、と想定するのだから、かれは、それを共同体的な労働時間、あるいは直接に結合された個々人の労働時間だと想定しているわけである。」（経済学批判　P104～105　岩波文庫）

　この問題は、「価値尺度としての貨幣は、諸商品の内在的な価値尺度たる労働時間の現象形態である。」（資本論3章1節P84　河出）と解決されたはずだが、価値尺度論をめぐる宇野久留間論争のなかで未決着になっている。ともあれ価値の価格への転化が、私的労働が社会的労働の姿態を取る事での矛盾（商品・貨幣の二重の姿態をとる）と示されている。資本論3章での、価値の価格への転化の論証を踏まえて、初めて価格＝価値と条件を設定でき、剰余価値を論じる土台ができる。

3 価値の価格への転化があれば、他方に商品の分析による価値の実体と価値の生成があり中間項として価値形態が論じられるのは、道理です。まず価値実体について考えてみたい。
　「私の「同質な単純労働だけからなる経済モデルを想定した下では、マルクスの価値形態論の主要な任務は『貨幣の生成』を原理的に説明する事に還元されいわゆる彼の『社会的必要労働時間』は古典派流の『直接・間接に投下された労働時間』に還元されると見なす事が出来る。」という主張は、要するにこういう事である。「直接・間接に投下された労働時間」とは上記の置塩の価値方程式の左辺を言葉で言い換えた表現であって、この左辺はマルクス経済学的に言えば「過去労働+生きた労働」である。」吉原さん、ちょっと混乱のもとを一つ片付けておこう。
　「だから当然にも、商品が生産された時と、交換過程に入るときには時間差があり、この間に社会的必要労働時間の変化が起こり得る。」（榎原さん）この「社会的必要労働量」は、資本論3章で・以下述べられている意味です。

「主観的な誤算は度外視しよう、――それは、市場でただちに客観的に訂正されるのだ。彼はその生産物に、社会的に必要な平均労働時間だけを支出したはずである。だから、その商品の価格は、その商品に対象化されている社会的労働の分量の貨幣称呼にほかならない。ところが、わが亜麻織物業者の許可なしに、しかも彼の背後で、古くから確実な根拠をもっていた亜麻織物業の生産諸条件が激変をきたしたとしよう。昨日は疑いもなく、一エルレの亜麻布の生産のために社会的に必要な労働時間であったものが、今日はそうでなくなるのであって、そのことは、貨幣所有者が、わが友のさまざまな競争者たちの値段表からきわめて熱心に立証するところである。彼には不幸なことだが、世間には織物業者が多いのだ。」（資本論1　P94河出）

　ここでの社会的必要労働量の変化を示したマルクスの意図はつぎのことです。

「分業は、労働生産物を商品に転化させ、そうすることによって、労働生産物の貨幣への転化を必然ならしめる。同時にそれは、こうした実体的転化が成功するか否かを、偶然ならしめる。」（同上P94～95）

　つまり商品の貨幣への変態であり、貨幣による価値の価格表現なのです。量ではなく、この質をマルクスは明示したのです。榎原さんの意図も、商品価値に表示される労働は社会的実体―であることを示す事です。以上

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2639 times