2003.02.27　榎原均

　石井さんの批判には一つのパターンがあります。私が広松渉やエンゲルスを「誤解」している、と言う指摘と、私の基本的な考えを「意味不明」としてしまう点です。このようなスタイルの批判に反批判はやりにくいものですから、敢えて反批判はしていません。
　ところで今回寄せられた「異論再説」にはこれまでのパターンとは異なって「超越論的仮像論」に付いての私の考えに対する感想が書かれています。それであなたの論文に促してコメントしてみます。
　批判者に対して期待するのが無理かもしれませんが、あなたによる私の説の理解はあまり正確ではありません。それとこれは感性の領域ですが「自然科学が示している諸法則を、それは本当は存在の法則ではないのだ、と述べるだけではなんの意味もありません」とあなたは述べています。しかし、これが「常識人」の考えになると、科学技術の専制支配の下にある現代社会で、それを制御できるようになるとは考えないのでしょうか。私はこのような考えが蔓延ることを期待しているのです。

　さて、やはり一つくらいパンチをふるわしてください。あなたは「存在と認識との一致を真理」と見なすことで私の見解への疑問を提起していますが、この立場はあなたが批判してやまない「旧来の認識論の立場」（2001.4.14論文）ではなかったのですか。ここでは広松哲学の立場には立たないのですか。あなたにとっての広松哲学とはたんに知識でしかなかったのですか。
　本論に入りましょう。今回のあなたの論文で、あなたがなぜ私の説を理解できないかが良く分かりました。あなたはこう書いています。「認識についての認識は当然、存在との一致を真理とするものではありません。一致するべき対象はありません」と。このように述べることであなたは認識の対象性を否定しています。認識とは意識の形態に他なりませんが、哲学とはこの意識を対象とした学問なのですね。つまり哲学で言う存在には意識も含まれているのです。存在と意識というように言われたりもしますが、意識それ自体が社会的意識諸形態として対象的に存在しているのですね。カントの言いたかったことは人間の理性に合理性、法則性が備わっていると言う事でしたが、意識を対象的なものと捉えないあなたにはこの事が理解の外にあったのではないでしょうか。人間の理性に備わっている合理性や法則性があたかも自然や人間それ自体に備わっているように見えると言うのがカントの「超越論的仮像論」だと私は考えているのですが、あなたにとっては人間の理性の合理性と言う事が納得できなかったのでしょうね。
　あなたも書いているようにカントの理性論ももちろん仮像に囚われています。この事をカントも自覚していました。だからカントは純粋理性批判で終わらずに実践理性批判と判断力批判を書かねばならなかったのでした。実践による検証は意味が違いますがカントも考えていました。
　人間の理性の合理性に付いて疑うことが現代思想の一つのテーマですが、社会的な実践に付いて提起しようと思えば理性の合理性を立てるしかないと私は考えています。そうしないのなら非合理主義を売り物にする、詩人か文学者の後塵を拝するしかないでしょう。

　ところで、今回も「誤読」と言う批判がありますが、脱構築にはなっていませんでしょうか。でもあなたが考えているように認識が対象的なものでないというなら「誤読」しないほうが難しい。それはさて置き、「誤読」と言って批判するよりも解釈の違いと捉えたほうが生産的でしょうね。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 2440 times