　サポートセンターは従来の三団体をワーカーズ・コレクティブとして運営していけるようにサポートするという課題を解決しましたので、今年度から役員を一新し、新たな活動に向けて再出発しています。その最初の試みとして、NPOで働く人向けの研修講座を企画し、とりあえずはその講座の中身を作るということで内々ではじめています。この文章は、4月4日に行われた研修講座のレジュメに加筆しました。

１） NPOについての一般的イメージ

　一時期はボランティアが流行しましたが、いまはNPOが流行していて、本も沢山出版されています。最近出版された本について簡単にコメントするところからはじめましょう。

A：『NPOという生き方』島田恒、PHP新書、2005年

　この本では「もう一つの生き方」や「もう一つの社会」という言葉が語られています。ひょっとして「もう一つの働き方」について論じているのではないかという期待を持ちました。ところが最終章で書かれているように、「もう一つの生き方」とはボランティア活動をはじめるということです。つまり典型的な会社人間に対して、余暇をボランティア活動に振り向けることで、新しい人生を体験することを薦めている、というものです。NPOとはこのような人達の「もう一つの生き方」のために、ボランティア活動を組織している団体だという理解になるように思われます。これは私達が目指しているNPOのミッションとは違っています。

B：『よくわかるNPO・ボランティア』川口清史他篇、ミネルヴァ書房、2005年

　この本は見開き二頁で一項目を説明するというスタイルで、執筆者も若手の研究者や、行政から委託されたNPOセンターを運営している現場の関係者です。使い勝手の良い本ですがそれだけに基本姿勢について一言いいたくなります。この本ではタイトルからしてNPOとボランティアとが同格に置かれています。そして「NPO・ボランティアの創造する世界」という章では、(1)コミュニティとアソーシエーション、(2)公共、(3)コモンズ、(4)市民社会、が挙げられていますが、何か今の社会に欠けていると思われ、あってほしいと思われる事柄が列記されているように思われます。こんな事柄がNPOやボランティアで実現できると考えるのはよほどおめでたいのではないでしょうか。

C：『市民活動論』後藤和子･福原義春篇、有斐閣、2005年

　この本ではNPOの活動を「市民活動」と位置付けています。そしてこれを「持続可能で創造的な社会」に向けた活動と捉えているのです。これもBの本と同様に主観的願望を述べているように思われます。NPOで活動する人達に夢を与えようというのでしょうか。もう少し実態に即した提言があっても良いと思います。

D：『コミュニティビジネスの時代』山内直人他篇、岩波書店、2003年

　この本では「NPOが変える産業、社会、そして個人」という副題からも知れるように、具体的なケースを取り上げて記述していて比較的に有益なものです。とくに「NPOで働くこと」という章があるのでこれはあとで取り上げることにしましょう。

E：『NPOと新しい社会デザイン』塚本一郎他篇、同文館出版、2003年

　この本は理論と実例が日本だけでなく世界の諸国についても触れられているところに特徴がありますが、私達が目指している「社会的企業」については、イギリスの事例紹介があるだけで、日本についての記述はありません。日本の場合は「NPOと行政」（福祉NPO）や「NPOと企業のパートナーシップ」が取り上げられているに止まっていますが、このことは日本には社会的企業は存在しないということでしょうか。決してそんなことはないのですが。

　全体から受けるイメージについてまとめて見ましょう。

　NPOが沢山できてきていることについて注目してはいるのですが、それが政府や財界の思惑と助成によって育成されてきているという現実についての分析が充分なされていません。また社会的企業としては、生協から出来てきたワーカーズ・コレクティブや、事業団から出来てきた日本労働者協同組合などがあるのですが、これらは完全に視野の外に置かれています。これらの団体が労働者協同組合の法制化を政府に求めていて、政府はこれに対して要求を認めないという方針です。ですからこの動きを見ないでNPOをボランティア活動と関連させて捉えると、もっぱら政府や財界の思惑を補完し助長するような記述に終始するようにならざるを得ないと思われます。

２）日本でのNPOの位置付けの問題点

　日本でのNPOの捉え方はアメリカからの輸入です。ドラッガーの『非営利組織の経営』ダイヤモンド社（1991年）やサラモンの『米国の非営利セクター入門』ダイヤモンド社（1994年）などがその指南書でしょう。

　ところで日本ではそれなりにNPOについての期待があり、それは次のようなものでした。まずは高齢化･少子化社会における社会政策としてボランティア活動の促進があります。次に環境問題への対応として、政府や自治体や企業がごみ問題や大気汚染や水汚染に取り組むときにボランティア活動という形で市民を巻き込んでいくということが進みました。さらに最近では自治体の経費節減策として、自治体の事業の委託がNPOになされるようになってきています。

　つまり今やNPO育成が国策となってきて、NPOの位置付けも、ボランティア活動の有効利用の組織的要とされるようになってきているのです。

　ところがこの日本のNPOの位置付けには歪みがあります。アメリカのNPOと日本の現実との落差を見極めずに理論を輸入したからです。アメリカの場合は、学校･病院などの大きな事業体がNPOの中心で、ボランティア団体とは別になっています。また官僚制も日本と違っていて、官僚制に人的固定がなく、大統領が交代すれば3000人の上級公務員が入れ替わり、在野のシンクタンクや研究機関が下野した人の受け皿となり、次の入れ替えに備えているという状態です。さらに法律は議員立法で制定され、圧力団体のロビー活動も強力です。そしてNGOや環境や高齢者などのボランティア団体の規模も、日本とは比較にならぬほど大きく、寄付金も巨額です。

　伝統社会が無く、先住民を殲滅して作り出された人工的なアメリカ社会は競争原理に基づき組織されているのですが、建国以来、何もないところから地域でのコミュニティを意図的に作り出す必要がありました。そして今日でも貧困者に対する福祉は自治体だけではなくさまざまなボランティア団体や企業のフィランソロピーとして取り組まれていて、フルタイムで働いている人が地域ではボランティアとして活動しているのです。また国営･公営事業が少ないので、公益的事業の多くが民間企業で取り組まれていてこれがNPOに分類されるのですが、他の諸国なら公的セクターの事業としてあるようなものがNPOの事業となっています。

　以上がサラモンらによって紹介されているアメリカのNPOのイメージですが、『素顔のアメリカNPO』（須田木綿子、青木書店、2001年）で紹介されているような少数派のNPOもあることに注意しておく必要があるでしょう。

　　ヨーロッパでは事業系はNPOという形ではなく社会的企業やコミュニティビジネスという形を取り、ボランティア活動はまたチャリティといった別の形をとっているようです。伝統社会がありながらも、戦争で国土の消失を体験しているヨーロッパ諸国では、中世の封建社会も契約関係で組織されていて、日本のようにお上に頼るような風潮はありませんでした。また労働組合やアソーシエーションといった人々の自主的組織も日本のように骨抜きにされずに活動を継続しています。

　日本は社会のタイプとしてはアメリカとヨーロッパの中間になりますが、80年代の一時期世界大国となっていけたのは、企業社会における会社共同体のシステムがうまく作用したためでした。これが90年代にはいって、機能せず、逆に解体されていくことで、日本経済の今後の方向性が見えてこなくなってきています。基幹産業における持続的発展が見えないところでボランティアやNPOに過剰な期待がかけられてきているのではないでしょうか。その結果として、NPOとボランティアが結びつけて理解されるようになったと思われます。

３）私達が求めるNPOのミッション

　NPOについての一般的イメージとは異なるNPOのミッションが提起されねばなりません。そのためには産業社会が成熟していったときの社会経済構造の中でのNPOの役割を明確にすることが必要で、この解明は今回の研修講座全体の課題としてあります。とりあえずは、委託事業や助成事業の受け皿としてではなく、コミュニティビジネスを担う新しい事業主体として捉えることが必要でしょう。国策によるNPO･ボランティアの育成とは別の流れとしての、協同組合的な働き方を目指している諸団体と連帯を目指していくことが求められています。そしてコミュニティビジネスの究極目標として、町内会や昔の５人組み的地域ではなく住民主体の地域作りを目指すことが問われてきます。そのためには「もう一つの働き方」というミッションに加え、安上がりで住める住宅の開発とその周辺のコミュニティ作りをミッションとすることで、コミュニティビジネスを成功させていくことが必要でしょう。

４）NPOで働くこと

　Dの本の第２章「NPOで働くということ」玄田有史執筆を見てみましょう。

　まず、「NPOという出会い」では、NPO活動にハマル中で「流れの中に身を委ねることで得られる充実感」を得ているという人のインタビューから、NPOが「出会いによってはじめて可能となる『自分探し』や『自分造り』」（48頁）の場であるとされています。

　次に、人はどのような出会いを求めているのかという問いに対して、玄田はNPOで活動することを求める人達の動機について、次の8点を挙げています。

　(1)「社会を変えたい」(2)「困っている人のために何かしたい」(3)「社会貢献しながら働きたい」(4)「失業･転職がきっかけに」(5)「第２の人生を見つけたい」(6)「生きがいを持ちたい」(7)「研究会への参加がきっかけに」(8)「なんとなく漠然と」

　いろいろな動機がありますが、玄田は「NPOに会社や学校では得られなかった何かがあると感じ」（57頁）ているというようにまとめています。

　さらに「人はなぜNPOに魅かれるのか」という項目については、次の4点が挙げられています。

　(1)「自分らしく生きたい」(2)「自分に正直でありたい」(3)「孤独でいたくない」(4)「知らない世界を見てみたい」

　玄田はこれらの期待はすぐ実現できるほど甘くはないが、NPOには可能性はあると見ています。

　以上はNPOに参加する個人の問題ですが、玄田はさらにNPOの組織について踏み込んでいます。「NPOがめざすコミュニティ」で玄田はNPO自体をコミュニティと捉えて、次の５点をその特徴としています。

　(1)「ゆるやかなネットワーク」(2)「平等でフラットな組織」(3)「この指とまれ主義」(4)「本当の個の尊重」(5)「多様性への寛容」

　玄田によればこれはかくあるべきという理念的なもので、他方にはシビアな現実があるとしています。そしてシビアな現実の記述に移っています。

　「NPOは甘くない」では「まずはお金の問題」が出され、資金基盤が弱いため、職員の待遇が非常に悪いことを述べ、更にボランティアに対しては交通費の支給もされないのが通常だという現実を明らかにしています。だからNPOで働ける人は限られてしまうのです。また雇用関係も社会保健や雇用保健がないケースが普通で就業規則も決められていない場合が多い。

　その上「お金よりもシンドイこと」があります。まず、フルタイムで働いている人にはNPOの活動に参加しにくいことがあります。次に活動する人の人間関係の問題があり、地域や家族に活動が受け入れられるとは限らないのです。更に組織内部の人間関係で、給与がさまざまな有給の職員がいて、有償ボランティア的な人がいて無償ボランティアもいます。これらの人たちの間にしばしば活動方向についてのすれ違いが起こります。また活動している人への評価も難しく、有償スタッフの働きすぎも起きてきます。

　このような困難を解決するのはリーダーの役割だと玄田は次のように述べています。

　(1)「社会的な認知･信用を得る」(2)「事業を採算に乗せる」(3)「過度の個人負担を防ぐ」(4)「独立性を確保する」

　これらは至極まっとうなことですが、リーダーに任せてしまうところには異議があります。

　このあと玄田の考察は「NPOと企業･行政のこれから」「コミュニティから切り離された人々」「個人とNPO」と続きます。そしてまとめとして「コミュニティビジネスをめざすNPOにあるのは、ただ、参加する一人ひとりが自分に何かができる可能性を感じる機会であり、それで多少なりとも社会がハッピーになれば、というささやかな志である。」（94頁）と締めくくっています。

５）玄田の理解についてのコメント

　まず、NPOの活動を労働として捉えていないことに違和感があります。他の事業体で働く人達とはまるで別世界のように見られているのです。たしかにNPOで働くことはミッションを持って働くことですから雇われて働くこととは異なる側面があることは明らかです。しかしやはり労働をしていることに変わりはないのであり、ミッションを持った働き方が、雇われて働くこととは異なる「もう一つの働き方」として、協同組合的な働き方として位置付けられていないと、過剰労働などの玄田が指摘しているシビアな現実を克服していけないように思います。

　次に、一人一人が自分探しをし、自分造りをしていけるのか、という問題があります。これは個人が孤立した状態で実現できるものではなく、他者との関係の持ち方の中で形成されていくものではないでしょうか。とすれば、働き方に関心を向けていかないと得られるものはないように思われます。

　また「人は何故NPOに魅かれるのか」で述べられている事柄が、今の会社や学校や地域や家族で実現されていないとしたら、NPO業界の中にそんなものがあり得るのかという疑問がわきます。あり得るとしたら、働き方を変えていくしかなく、やはりNPOで働くことを活動として捉えているだけでは、方向性が見出せないでしょう。

　実際に、企業や行政がいまの社会のひずみを直そうとNPOに期待していますが、それがボランティアやNPOの活動で何とかなるものではないでしょう。国策で推し進められているNPO育成が、やがてはNPOの使い捨てやNPOの失敗という形で総括される可能性もあります。何よりも過剰労働の可能性が、労働市場全体の錘となって労働条件を引き下げる働きをする惧れがあることをはっきりと認識しておく必要があるでしょう。

　そうだとすれば、企業における正社員と派遣･パート職員との格差をなくすこと、行政の委託事業の囲い込みをなくすことなどが追求されなければならないでしょう。NPOが増えていくということを反面教師として、従来の社会システムの改善に同時に取り組むことが必要でしょう。

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Author: ebara Published: 2006/5/19 Read 3611 times