（1）新しい社会運動も一つの組織体に担われています。
　組織体は、もちろん個人の集合ですが、個人の自我の論理とは別の論理で動きます。このことを体得することがまず必要でしょう。

（2）組織体の論理は、その組織の差異によって多種多様ですが、従来の組織体の論理には大別すると三種類ありました。

（3）国家権力に典型的な論理は、政治的強制にもとづく支配・隷属の関係です。もっとも、新しい社会運動の参加者の中にも、この点に同意しない人が居るかも知れません。多分、「国家は自由・平等ではないか」と反論されそうですが、それは国家意思に従っている限りのことで、それに異議申し立てをすれば、ただちに政治的緊張関係が生まれ、政治的強制の存在が顕わとなってくるでしょう。

（4）株式会社などの私企業に典型的な論理は、経済的強制です。私企業で働かなければ食べていけない、という飢えの規律で、今日の市民社会は組織されています。もちろんどこに働きに行くかは全く個人の自由ですが、しかし他人のところに働きに行かなくても生活できるチャンスは、他人を雇って生活することを除外すれば、本当に限られています。

（5）反体制派の政党に典型的な論理は、政治的意志の統一です。といっても、今日の政党は体制内化しており、純粋に政治的同一性を追求しようとする党派は見当たらず、ほとんどの政党は、国家権力と同様に政治的強制力を利用している、という現実があります。

（6）個々の個別的組織体は、この三種類の論理を混ぜ合わせて、組織としてのアイデンティティを保っていると思われます。

3）新しい組織体の論理

（1）新しい社会運動は、この三種類の論理からは自由でありたい。
　この思いが私たちの共通認識だったと私は考えています。ここに私たちは新しい社会運動の可能性を感じとっていたのでしょう。

（2）三種類の論理から自由なところで組織体の運営は可能なのか？
この問題がいま私たちの前に立ちはだかっています。

（3）この問題を解決していくための方法は、この間の私たちの協働について研究すること、さらに他の同様の組織の運営について研究することによる他はないでしょう。

（4）ところで研究のためには仮説が必要です。
　私が提案するのは、私たちの協働を共同して研究していくための仮説です。

（5）第一の仮説は、すでに述べられています。それは、三種類の論理から自由でありたいということです。ということは、別の論理が形成可能であることを示さねばなりません。

（6）別の論理は、理論的には、どこから導かれるのでしょうか。それは、三種類の論理がいずれも、広い意味でのコミュニケーションの内実であることを知ることから始まります。というのも、組織体とはそれを構成する諸個人のコミュニケーションによって存在するものだからです。

（7）こうして第二の仮説が導かれます。私たちはいま、三種のコミュニケーションとは別の、新しいコミュニケーションを生成しようとしているのです。
　この新しいコミュニケーションについて、私は、近代的自我が他者の絶対的他性を認めることで、それぞれの個が唯一性をもつことを認め合うことが可能な社会システムであると考えていて、新しい社会運動をそのようなシステムであると見なしています。

（8）政治権力の場合はもちろんのこと、経済的強制や政治的意志統一も個人の自我に対する同一化の要求です。
　政治やお金や左翼にうさんくささを感じていること、ここからさらに、次の一歩を踏み出すためには、諸個人の同一化が、個人の唯一性を保存した上でなされる社会形態を発見し、それに加わらねばなりません。

　それを可能とする事業の形態がついに発見されました。
　ということで、第三の仮説は、個々人が集合し、組織体をつくったとしても、個々人が唯一性を保てる社会システムは新しいタイプの事業体としてしか可能ではない、ということになります。

4）新しい組織体の運営

（1）三つの仮説は、三種類の論理からは自由な論理をコミュニケーションとして形成しようとすれば、それは個々人の唯一性を保障し得るような、一つの統一体としての事業を始めること、という結論が導かれます。

（2）この結論から、新しい社会運動の運営について考えてみましょう。
まず第一に、個々人に政治的意識の上での同一化を求めるようなコミュニケーションはやらないことでしょう。
　第二に、経済的関係で強制し合うこともよくありません。
　第三に、権力関係を持ち込むことなど、もっての他です。

（3）とりあえずは否定的な原則を三つ述べましたが、では肯定的にはどのような原則が出てくるでしょうか。これを導くためには、主体の構造について知る必要があります。
　従来の三種の論理は、いずれも、組織を主体として成立させますが、その主体は個々人の同一性にもとづくものであって、必然的にピラミッド型の権力構造を持ちます。これに対して、いま私たちが形成しようとしている協同主体は、実はピラミッド型ではなく、平面に存在している諸個人と同じ平面に、つまり、諸個人がぐるりと輪を描いたとすれば、その円の中に、立体化することなく、しかも超感性的なものとして実在するものとなるでしょう。

（4）こんな協同主体がはたして可能なのでしょうか。私は次のルールが体得されれば実現すると考えます。
　第一に、自我を開くこと。事業に関する決定は必ず共同で行うことです。
　第二に、自分がやれないこと、やりたくないことは引き受けない。組織のために貢献したい、という考え方は、旧い論理ではないでしょうか。
　第三に、事業として協同主体をたてるわけですから、事務、財政が、一番重要であると気づくこと。

（5）新しい社会運動はこのような組織と運営を実現することで持続性を獲得し、その目標を達成していけるでしょう。

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Author: admin Published: 2006/1/5 Read 3320 times