office-ebara - バラキン雑記

ホーム

お知らせ

バラキン雑記

掲示板

WEBリンク集

自己紹介

お問い合せ

ログイン | 新規登録

Contents

いま何が起きているか―マスコミではわからない草の根の動き― どうするべきかおおいに論争を―論争のページ実践のひろがり―アソシエ21関西結成集会から始まった― 理論的関心のある人のために学習したい人のために

News

お知らせバラキン雑記更新履歴

Communication

掲示板旧掲示板過去ログ

About us

自己紹介 office-ebara を支援する会榎原均著作出版物紹介お問い合わせ

リンク集

WEBリンク集 office-ebara 旧サイト

ログイン

Lost Password?

Register now!

バラキン雑記 - Entry for ebara

Syndicate ebara's entries

2014/09/12

グラムシ陣地戦論の再構築

Category: バラキン雑記 :

Author: ebara (9:17 pm)

グラムシ陣地戦論の再構築

A．陣地戦についてのテーゼ

１．市民社会と陣地戦

１）グラムシの問題提起　
　市民社会というと、さまざまな見解があり、それぞれについてのコメントをするとなると大変である。それでここでは私自身の暫定的な市民社会把握を提示しておこう。「市民社会とは、労働社会と地域社会の複合体である。そして市民社会においては、人々は交易関係（市場、互酬、コミュニケーション）で結びつけられている。」前者は市民社会のハード的な関係を規定し、後者はソフト的な関係の規定である。
　周知のように、市民社会を支配者側の陣地と見たのはグラムシだった。
　グラムシは1922年のコミンテルン4回大会でレーニンと面談している。レーニンはこの
大会でロシアでネップ（商品交換と市場経済の容認）を採用して、戦時共産主義を終わら
せたことについて報告した後に、ヨーロッパの革命運動の波が引いていったことを捉えて、
コミンテルン3回大会の「組織テーゼ」の自己批判をしていた。
　グラムシはヨーロッパにおける共産主義革命の敗北について、ロシアでは市民社会が未
発達であったが、それが発達しているヨーロッパでは、支配階級（ファシストを含む）が
市民社会の学校、同業組合、教会などを陣地として利用して陣地戦を仕掛けていて、この
ような条件の下では、武装蜂起による権力奪取（機動戦）は敗北すると考えた。グラムシの獄中ノートから一つだけ引用しておこう。
「私には、イリイッチは、17年に東方に適用して勝利した機動戦から、西方でただ一つ可能であった陣地戦への転換が必要なことを理解していたように思われる。・・・・ただ、イリイッチは、彼のこの定式を深める時間がなかった――基本任務が国民的であったのに、つまり地形を偵察し、市民社会の諸要素によって代表される塹壕や要塞の諸要素を確定すること等々が必要であったのに、彼は定式を理論的に深めることができたにすぎないことを考慮するにしてもである。東方では国家がすべてであり、市民社会はゼラチン状であった。西方では、国家と市民社会のあいだに適正な関係があり、国家がゆらぐと、すぐに、市民社会の堅固な構造が姿をあらわした。国家は前方塹壕にすぎず、その背景には要塞と砲台の堅固な連鎖があった。もちろん、それには国家により大小はあったが、まさにそのことが各国の正確な認識を必要としたのである。」（石堂清倫訳『グラムシ獄中ノート』、193〜4頁）

２）グラムシ陣地戦論受容の問題点
戦後グラムシの提起はイタリア共産党を初めヨーロッパの共産党や社会民主主義者に受け入れられた。日本では1960年代前後からグラムシの紹介が始められた。しかし、日本でのグラムシ受容は、市民社会を支配者側の陣地としてではなく、味方の陣地と捉える見方が主流となっていた。それには冷戦時代の福祉国家体制における力関係が反映していた。
福祉国家時代に市民社会を味方の陣地にできた理由としては、ソ連・東欧・中国などの社会主義国の存在は大きく、日本でも二つの体勢の存在によって、これまでの運動の考え方を変える体制間矛盾論と平和共存路線が提起されていた。当時の日本では市民社会の内部（労働社会）には労働組合が強固に根を張り、労働者政党（社会党）も議会に多数の代表を送り込んでいた。
しかし、戦後の冷戦時代の力関係（東風が西風を圧する）は、60年安保闘争以降の日本経済の高度成長によって変容させられていく。市民社会の内部の陣地であった労働組合を御用組合にする支配者側の陣地戦が、労働社会では執拗に展開され、市民社会は支配階級の陣地戦が展開される陣地としての様相を持ってきていた。しかしこれを陣地戦における敗北と見て、新たな陣地戦の戦術を提起しようとする見方は確立されなかった。というのも左翼の側は、グラムシの提起にもかかわらず、市民社会を支配階級の陣地戦が展開されている場として認識してはいなかったのだ。これに関連して獄中ノートから引用しておこう。
「国家は一般に政治社会（すなわち所与の時代の生産様式と経済に人民大衆を適応させるための独裁または強制装置）として理解されていて、政治社会を市民社会との均衡（すなわち教会・組合・学校などの、いわゆる私的組織をつうじて国民全体に対して行使される一社会集団のヘゲモニー）として理解されていません。」（グラムシ『愛よ永遠なれ、獄中からの手記』大月書店、86頁）
ここでグラムシは、支配階級は資本家たちの私的組織を通じてヘゲモニーを行使している、つまり陣地戦を仕掛けてきている、と述べていることは明らかだが、しかしこの私的組織をアソシエーションと読み替え、味方の陣地と捉える理解がなされてきている（『「市民社会」と共生』日本経済評論社、鈴木信雄論文、21頁）。このような理解だと、60年以降の左翼の後退についての総括のしようがない。

３）ソ連崩壊は市民革命か
ファシズムの全体主義もソ連も、市民社会を機能不全にしたことは紛れもない事実である。それもあって、ソ連・東欧の崩壊は市民社会の復活だとみなされ、市民社会論が新たに展開された。市民社会論はヨーロッパではそれまではあまり議論されることはなかったが、ハーバーマスが市民社会を公共空間と定義して、この考えは一時的ではあったが世界的に流行した。日本では、戦後の政治において、市民社会（民主主義）が未成熟という考え方があり、市民社会は反体制側の要求や課題として取り上げられて、ずっと議論されていた。しかし、それも70年代初頭までで、以降は市民社会論は影を潜めていた。
ソ連・東欧崩壊の後に注目を集めることとなった市民社会論は、それまでの理解と違って、市民社会を公共圏と捉えて、それを生産様式から切り離すところに特徴があった。しかし、公共圏における自由な対話で体制への異議申し立てをするという考えはナイーブ過ぎて現実の運動には役立たなかった。
ソ連の崩壊は共産党の崩壊によるもので、その帰結は資本主義化であり、それも当時流行していた新自由主義的やり方での公共財の私有化として、どさくさにまぎれて暴力的な収奪が行われた。それは決して公共空間としての市民社会の生成とはなりえなかった。
参考文献として植村邦彦『市民社会とは何か』（平凡社新書）を上げておく。

４）今日の新自由主義は市民社会を破壊している
ソ連・東欧崩壊後資本主義世界の主流となった新自由主義は、市場原理を破壊し、その結果として市民社会を破壊している。彼らによる市民社会の破壊はまず労働者を物と見ることで、株式会社として組織されている大企業の内部的秩序を破壊させており、また、ますます増大している派遣労働者や非正規労働者らのワーキングプア層を、結婚して子どももつくることができないような生活状況に追い込み、労働力の再生産を不可能にしている。さらには、貧困者の救済を慈善事業にすることで、弱者を社会から排除している。彼らの社会政策は個人主義的発想からベーシックインカムに向かうほかないが、これは実現不能であるし、社会的包摂とは相容れない。
また、日本での3.11原発事故も市民社会を破壊した。放射能の汚染により、避難させられた住民にとっては市民社会の喪失であった。これに異議を申し立てる運動によって、従来のイデオロギーや、左右の政治的立場に代わる新しい歴史ブロックの形成が成し遂げられつつある。政府と電力会社が再稼働を意図する限り、この歴史的ブロックを背景とした反対運動は永続する。そして反・脱原発運動の永続を土台に他の反体制運動も運動としての拡大を見せている。
　このようないわば非常事態に対応して、安倍は戦争できる国をめざしているが、戦争も市民社会を破壊する。戦争による市民への強制的圧政、戦争への国民の動員、これは一時的には排外主義的熱狂によって人々を引き付けるが、やがて、人々に怒りのマグマを生じさせ、政府の転覆さえ帰着させる。戦争準備への反対運動と、原発事故を契機にした反原発運動、それに新自由主義による市民社会破壊への対抗運動、現在における陣地戦の課題は多様である。
改めて市民社会とは何かが問われるべきである。市民社会は公共空間ではなく、企業も含めた労働社会であり、それと地域社会との複合体である。この市民社会は福祉国家時代には体制派と反体制派が競い合う陣地であった。しかし、新自由主義への移行の時代に市民社会は体制側の陣地として組織された。新自由主義が市民社会を破壊している現在、再び市民社会のなかに反体制側の陣地を構築することが可能となっている。

２．陣地戦としての社会運動

１）サードセクターの成長
　公的セクターと私的セクターしかなかった福祉国家時代から、サードセクターが成長する時代が到来した。福祉国家のもとでは、公的セクターと私的セクター（営利事業）という二大セクターがあり、他は非資本主義セクター（自営業＝農民、小商店）でだんだん分解されていくという認識だった。公的セクターは税金の再配分機能を持ち、貧困層への社会保障を担ってきていた。
70年代以降、このような社会システムが変容し、公的セクターが財政難で税金の再配分機能を民間に委託し始め、その結果、新しい非資本主義セクターが、サードセクターとして成長してきた。今日の先進国の社会は公的セクター、私的セクター（営利事業）、サードセクター（非営利事業）の三大セクターによって構成されるようになり、サードセクターが資源の再配分機能を担うようになってきている。

２）二つのトライアングル　

　　　人類学由来のモデル（正三角形を入れる）
　　　　　　　　　　　　　　　　国家
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　互酬　　　　　　　　　　　　　　市場　　　　　　　　

21世紀の社会モデル（正三角形を市場が被いつくしている）

　　　　　　　　　　公的セクター（国家）　　　

　　　
市場―――＞

　　　
サードセクター　　　　　　　　　　　　私的セクター（営利事業）　　　
　　　　　（非営利事業）

この社会の変容を表すトライアングルモデルとして、従来は人類学に由来するモデルが利用されてきた。これに対して21世紀型のモデルが必要である。
人類学発のトライアングルの問題点としては、市場が全社会を覆う以前の社会のモデル化であり、市場が全社会を覆っている現代では、新しいモデルの提案が必要である。たとえば、サードセクターに属する社会的企業は協同性と効率性が問われ、互酬と市場が前提となっている。人類学的モデルでは、この二重性が表現できず、仕方なく、トライアングルの真ん中にそれを位置づけたりしている。また、営利企業にも内部には互酬や協同はある（内部労働市場論）。

３）市民社会の諸要素
　先ほど引用したグラムシは、陣地戦の準備に必要な作業として「つまり地形を偵察し、市民社会の諸要素によって代表される塹壕や要塞の諸要素を確定すること等々」と述べていた。市民社会の地形とは、労働社会と地域社会と、市場をはじめとする交易関係である。まず一番目につく市場から見てみよう。
　市場とはさしあたり商品交換の場である。商品には四種類ある。一般商品（労働生産物やサービス）、労働力、土地、貨幣、がその種類である。このうち、労働力と土地と貨幣は擬制商品と呼ばれている。
　四種の商品はそれぞれ市場で取引されている。商品市場、労働市場、不動産市場、金融市場。ところが、それぞれの市場は本質的に異なる内容をもつ。
商品市場は等価物の交換の場で、相手に不利益を与えないのが原則である。今日の食品表示問題にみられるように、偽装すれば罰せられる。労働市場は資本家と労働者の間の取引で、階級間の取引の場であり、搾取があって、等価物の交換は流通に属する仮象となる。不動産市場、金融市場は、土地の手当てや資金の手当ても実現しているが、ここは貸借関係の場であって、等価物の交換の場ではない。それはまた、他方で投資と投機の場でもあり、この投機市場としては、相手を出し抜く場となる。

４）新自由主義による規制緩和のもたらしたもの、市民社会の破壊
　それぞれの市場には規制がある。商品市場にも、地域経済の保全という見地からの規制があったが、規制緩和の結果、地域経済の崩壊が起きた。労働市場の規制緩和は、労働組合の力を弱め、企業の利益が赤裸々に追及されることで、ワーキングプアを生み出した。またこの事態は企業の内部秩序も競争原理で組織することで企業内秩序を変容させた。
　金融市場の規制緩和は、投機を助長し、現物経済をはるかに凌駕する金融取引を生み出しただけでなく、金融市場にあらゆる経済活動から富を吸い上げるシステムを形成し、貧富の格差を拡大させた。

５）新自由主義による市場原理の破壊への対抗
　一般に理解されている、新自由主義は市場原理主義だという認識は、誤謬である。逆に新自由主義こそが市場原理の破壊者なのだと捉えることが、市民社会の諸要素を把握することから導かれてくる。4種の商品の違いに基づいたそれぞれの市場への規制は、市場原理の防衛でもあることに注目すること。市民社会を労働社会と地域社会の複合体と捉え、市場の規制、とりわけ労働市場の規制の目標を市民社会の保全におくことが問われている。

６）今日の陣地戦の目標と陣地のあり方
　新自由主義の市民社会破壊と闘うこと。そのためには各種市場への規制による市民社会の保全が課題となる。
　次に自治。自治は人々の企てからしか始まらない。労働社会と地域社会の自治を企てる。
さらには環境保全。大量生産、大量消費、大量廃棄の流れに対抗し、地産地消、リユースを軸にした地域内循環、農と都市との結合。
市民社会が労働社会と地域社会との複合体であるとすれば、陣地のあり方は一つは労働社会での陣地、つまり事業体であり、もう一つは地域社会での陣地、つまり自治による地域づくりである。社会的排除に抗した労働統合型の社会的企業が形成する社会的経済は、この市民社会における陣地としての意義がある。
３．社会と権力

１）グラムシの提起
　国家権力は支配階級の暴力装置という考え方に対して、支配階級による市民社会での陣地戦の展開による同意の獲得を重視した。この支配階級のヘゲモニー行使に対抗する味方のヘゲモニー行使については、グラムシといえども解明してはいなかった。味方のヘゲモニー行使についての戦術を明らかにするためには、社会生成における権力作用の解明へと探究を進めることが求められている。
まず、政治社会学的アプローチでは既に次のような事柄が解明されている。人は対面関係においては、働きかけられる側が、一般的他者（社会通念）の担い手となる。ここに社会における権力維持の根拠がある。受け手の側が、一般的他者の態度を拒否した時に、そのまなざしが権力作用を崩壊させる。このアプローチはソ連・東欧崩壊の政治過程の解明に有効である。
次に、政治経済学的アプローチであるが、今日の市民社会での陣地戦展開において、最大の障壁は資本の権力である。政治社会学的アプローチは、政権交代の解明には役立つが、資本の権力作用については視野の外にある。資本の権力作用を無化するには、生産における自己権力の生成が不可欠である。

２）社会通念の拒否と陣地における自己権力
　政治社会学的アプローチから帰結する社会通念の拒否と、政治経済学的アプローチから帰結する自己権力の生成、この二つは連動する。労働社会における自治と地域社会における自治は、陣地戦における自己権力として作用する。これらは一つの文化圏を形成し、その文化は社会通念に対抗する。

３）陣地戦の課題
　差異を力に、が陣地戦の合言葉である。そのためには資本のもとへの経済的隷属からの解放という、資本主義を超える運動を構想することが求められている。いまだ意識はされてはいないが、従来の組合運動、政治運動、新しい社会運動、3.11以降の運動、これらの共通の土台がここにある。

４）「いま」「ここで」資本主義を超える
資本主義は意志支配のシステムである。資本主義を意志支配のシステムと見ることで、「なぜ、私たちは喜んで資本主義の奴隷になるのか」ということも明らかとなる。商品・貨幣・資本は物としてしか目に見えず、物に意志を支配されても人は自然法則への順応と考えて、これを利用しようとするのだ。これが物象化の根本だ。
次に、資本主義の害悪の特徴を述べよう。物象に意志支配されている人々による支配隷属の関係では、支配者を特定できない。資本という物象をもつ人々は資本家階級を形成し、それをもたない人々は被支配階級となるのだが、支配・隷属の関係が自然法則の帰結のようにしか意識されない。伝統的な階級という観念が崩壊する。
さらに、このような意志支配の根底にあり、資本の死滅を防いでいる経済的隷属について注目しよう。働く人が雇用されなければ、資本は死滅する。トヨタが朝門を開けても、誰も工場に来なければトヨタ資本主義は死滅する。しかし、雇われて働いている人は、雇われること以外の生計の道がない。というのも生活手段を得るために必要な農地や道具や機械類が手元にないからだ。自分の労働力以外の生産手段をもっていないのが、雇われて働き、資本を増やすという、資本への経済的隷属から抜け出せない理由なのだ。資本主義の存続条件は、働く人の経済的隷属にあることを理解することが資本主義を超える理解の前提だ。
その上に、ソ連・東欧崩壊の原理的根拠の理解も問われる。ソ連・東欧の共産党の綱領の根本は、政治権力の意志の力で社会変革を推進し、商品・貨幣・資本の廃絶による階級の廃絶を実現するというものだった。しかし、商品からの貨幣の生成が、商品所有者たちの無意識のうちでの本能的共同行為によることが判明すれば、この無意識のうちでの本能的共同行為を意志の力で何とかすることには無理があることが分かる。ではどうすればいいかといえば、この無意識のうちでの本能的共同行為を不要とするような交易の関係を迂回して作り出すことが必要だったのだ。

５）資本主義の超え方
資本主義を超えるということは、資本主義から脱出の道を進むことだ。資本主義への経済的隷属から抜けようとすれば、雇われて働かなくとも生活できるシステムを作ることしかない。資本主義のもとでも農民や小経営者などの自営業者は雇われて働いているわけではない。あるいは働く人の協同組合も、資本を増やしているわけではない。共同体で事業を展開する道も同様だ。
しかし、この脱出の道は多くの困難に取り巻かれている。大勢がこの道に参加すれば展望は開けるが、現実はそうはならない。第一に、自分が資本を増やしているということが、見えず、資本の増殖はお金をもつことや、企業を経営することや、人を雇うことから生まれるように見える。知識人はこの事態に目を奪われて、労働価値説の崩壊などといっている。（労働価値が崩壊したというなら、なぜ恐慌が起こるのか。）第二に、生活のための生産手段をもてないので、いやでも雇われざるを得ない。第三に、働く人の協同組合を作っても、市場での競争が厳しく、経営していくことが困難だ。
しかし、ここまで資本主義が行き着いたのなら、オルタナティブに挑戦することが課題だ。新自由主義が市場原理を破壊し、市民社会を崩壊させている中で、市民社会に陣地を築くことが可能となってきたのだ。
まず、地域内のお金と人の循環を考える。お金の地域内循環、職住近接。相互扶助。
次に、雇われない働き方での仕事場を作り増やしていく。非営利の経済組織（協同組合、NPOなど）による事業活動の連携と発展。社会的経済を構成する社会的企業等による社会的包摂の事業を展開する。
さらに、株式会社の非営利事業化を促進する。
これらの試みによって、対抗社会の形成が可能となる。経済的隷属からの脱出が形成する対抗社会は、商品から貨幣を生成する無意識のうちでの本能的共同行為が必要なくなるような交易関係を形成する。この流れは株式会社の非営利事業化を促進する程度にまで成長すれば、全世界的に資本主義を超えることが課題となろう。

Ｂ．グラムシの遺志の継承のために

第1章　グラムシの日本への輸入とグラムシ・レーニン問題

１．石堂清倫による紹介
　グラムシの著作は60年安保闘争の直後の1961年に選集第一巻が発売され、そのころ日本共産党から除名された構造改革派の思想的・理論的バックボーンとして紹介された。石堂清倫は『わが異端の昭和史』下巻（平凡社ライブラリー、2001年）や『20世紀の意味』（平凡社、2001年）で、自らの60年代初頭のグラムシ紹介が、トリアッティに引きよせた解釈だったと自己批判しているが、イタリア共産党の書記長だったトリアッティが、自ら唱えた構造改革路線を正当化するためにグラムシを利用したことへの警戒がなかったのだ。
とはいえ日本でのグラムシの輸入は、まぎれもなく、構造改革路線の思想的・理論的バックボーンとしてなされたのであり、石堂清倫は『現代変革の理論』（青木書店、1962年）で、構造改革について、批判者側の反対論に対応する形でテーゼにまとめて次のように述べている。
「反独占民主主義的改革、あるいは構造改良のコースにたいするいろいろの反対論のうち、最も重要なのは、根本的変革（社会主義革命）以前に、通常のわくをこえた、深刻な、社会の構造そのものにかかわる『改良』が可能となり、この改良が社会主義と接近し、転化する重要な前提条件になる、というテーゼにたいする反対である。」（『現代変革の理論』、199頁）
このような構造改革が可能となる条件は国際的に社会主義が優位に立っていることに求められる。
「今日のように、国際的に社会主義が優位に立つ時期には、この関係に若干の変化が生じていることも考えられる。社会主義への平和移行や民族民主主義下の非資本主義的発展の問題には、かつては改良にぞくする形態と思われたのもが、今日では革命の一つの形態として役立つ場合もありうるのである。」（同書、201頁）
そしてこの構造改革路線をグラムシの陣地戦から正当化している。
「グラムシは革命闘争の形態を運動（機動）戦と陣地戦の二つに分けた。運動戦というのは、権力獲得のための革命的攻撃にあたる。われわれの常識では、革命概念はまずこの運動戦につきている。そしてそれなりの歴史的根拠があったのである。これにたいして、革命的攻撃がさしあたり可能でないか、または革命的攻撃を可能にする以前の準備としておこなわれる動作を、彼は一括して陣地戦といっている。彼は社会構造を陣地に見たてたのである。・・・・・これらの陣地を一つ一つ攻略することなしに、いきなり総攻撃をおこなえば、友軍は大きな損害をうけて退却しなければならなくなる。つまり国家権力の攻略に成功できない。」（同書、208頁）
またグラムシが展開している永続革命の終焉にかかわる問題についても、それを構造改革路線の合理化という見地から位置づけている。
「1870年代から、ヨーロッパは近代の意味での植民地的膨張を開始する。対内的にも対外的にも、国家はもはや『夜警国家』でも『安上がりの政府』でもなく、広範、複雑、巨大な権力体系に転化する。・・・・・この新しい環境のもとで『永久革命』の公式はその歴史的サイクルをとじる。これにかわって『市民的ヘゲモニー』が現われてくる。」（同書、214頁）
この市民的ヘゲモニーが、国際的に社会主義が優位にあるという条件のもとで、次のように陣地戦の内実であり、かつ構造改革という陣地の形成の問題としてとらえられている。
「市民社会の上部構造、陣地戦における防御体系にあたるものを具体的に研究し、詳密な戦闘計画をたてなければならない。
　市民社会にあってブルジョアジーのヘゲモニーが支配している。これをプロレタリアートのヘゲモニーによる指導に転化することがこれらの陣地戦の攻略内容である。・・・陣地戦における作業には、知的道徳的指導による社会的ヘゲモニー確立の側面が存在していることをくりかえし述べておきたい。」（217頁）
　このように構造改革路線から位置づけられたグラムシの陣地戦論は、市民社会における支配階級の陣地としてある学校、業界団体、組合団体などを一つ一つ攻略してプロレタリアートのヘゲモニーのもとにおくというようなイメージでとらえられたのだ。
　ただ石堂のグラムシ評価で、ずっと維持されている内容であるが、レーニンのコミンテルン4回大会での自己批判の問題にすでにこの時点で触れていることに注目しておこう。1920年の赤軍によるポーランド進撃の失敗、1921年のネップ（新経済政策）への転換（内戦期の戦時共産主義が、食料を農民から強制的に調達したことへの反抗が、クロンシュタット要塞での水兵の反乱となり、それを機に、市場の容認と食料税を導入したこと）を踏まえ、コミンテルン4回大会では統一戦線戦術へ転換し、3回大会の党の組織と活動方法についての決議への反省がなされたことについて石堂は言及している（同書、224〜5頁）。
　そして石堂の晩年の著作『わが異端の昭和史』下巻、第6章では、レーニンとグラムシとの出会いが語られているが、そこでも「1921年のコミンテルンの第三回大会、翌年の四回大会の転換とグラムシを結びつけることができないかと考えてみた。」（『わが異端の昭和史』下巻、220頁）と書かれている。
　さらに参照されるべきは、最晩年の、生活クラブ生協関係者にまねかれての講演である。石堂はここでレーニンの1921年の転換とグラムシの思考とをつなげ、「『グラムシの獄中ノート』の大半は、ソヴィエト共産主義にたいする理論および政策上の批判だったと思うからです。」（『20世紀の意味』、29頁）と述べ、ソヴィエト共産主義＝スターリン主義批判として、グラムシの思考を位置づけている。

２．グラムシとレーニン
まず、『グラムシ獄中ノート』から、問題の個所を示しておこう。訳本は『グラムシ・リーダー』（フォーガチ編、お茶の水書房、1995年）もあるが、訳文が以前から引用されて馴染みのある石堂訳『グラムシ獄中ノート』（三一書房、1978年）を採用する。
「私には、イリイッチ（レーニンのこと）は、17年に東方に適用して勝利した機動戦から、西方でただ一つ可能であった陣地戦への転換が必要なことを理解していたように思われる。・・・・ただ、イリイッチは、彼のこの定式を深める時間がなかった――基本任務が国民的であったのに、つまり地形を偵察し、市民社会の諸要素によって代表される塹壕や要塞の諸要素を確定すること等々が必要であったのに、彼は定式を理論的に深めることができたにすぎないことを考慮するにしてもである。東方では国家がすべてであり、市民社会はゼラチン状であった。西方では、国家と市民社会のあいだに適正な関係があり、国家がゆらぐと、すぐに、市民社会の堅固な構造が姿をあらわした。国家は前方塹壕にすぎず、その背景には要塞と砲台の堅固な連鎖があった。もちろん、それには国家により大小はあったが、まさにそのことが各国の正確な認識を必要としたのである。」（『グラムシ獄中ノート』、193〜4頁）
　この論じつくされているかに思われるグラムシのノートについて、石堂著『20世紀の意味』から、レーニンの転換とグラムシの呼応について、わかりやすく書かれているので要点を紹介しておこう。
　「1921年の転換といいますのは、内容的には、従来の『戦時共産主義』の方針を改めて、農民から農作物を取り上げるのではなしに、一定の食料税として納入させ、余剰の農作物は自由市場で販売することを許すという『新経済政策』（ネップ）をとったことです。それが転換の第一です。」（『20世紀の意味』、26頁）
　石堂が引き合いに出しているコミンテルン第4回大会でのレーニンの演説の大半は、このネップの位置づけについて述べたものだ。3回大会の組織テーゼの対する自己批判は、演説の最後に付け加えられている。
「もう一つの問題は国際政策の転換です。1921年3月のドイツ革命の失敗が原因です。この革命は、ドイツ共産党が社会民主党との十分な協力なしにくわだてた武装蜂起ですが、これが惨敗しました。
　1921年6〜7月のコミンテルン第三回大会で、ドイツの『三月行動』の失敗から、労働者階級の多数を獲得する方針がうちだされました。」（同書、26頁）
　このレーニンの転換の提案は結局レーニン死後のコミンテルンの指導者たちによって継承されず、最終的にはスターリン主義の影響下におかれることになる。石堂は、「それまでレーニンたちは、社会民主主義を資本主義のイデオロギーと考えていました。社会民主主義を解消することなしには社会主義への道は開かれないと確信していたのです。」（同書、27頁）と述べているが、この前からの確信がスターリンの祖国防衛主義の観点から利用されてしまい、第二次大戦後のソ連による東欧支配に行き着いたのだ。
　さて、この論点がグラムシ研究者にとってどのように深められたかについて、十分調べたわけではないが、松田博と片桐薫を紹介しておこう。松田博著『グラムシ思想の探求』（新泉社、2007年）はその第二章で、グラムシとレーニンについて論じている。片桐薫によれば、グラムシはコミンテルン（第三インターナショナル＝共産主義インターナショナル）執行委員に選ばれ、1922年5月26日にトリーノを出発し、6月3日にモスクワに到着している（片桐薫『グラムシ』、リブロート、1991年、127頁）。そして、同年11月5日から開催されたコミンテルン第四回大会に参加している。この大会では先に紹介したように、レーニンが、三回大会で決定されていた「共産党の構成、その活動方針とその内容にかんするテーゼ」に関して、自己批判的発言をしたことで有名であり、グラムシはその現場に臨場していたのだ（片桐、133頁）。それだけでなく、第四回大会の直前、10月25日夜にはレーニンと会談している（片桐、135頁）。グラムシはモスクワ滞在中にイタリアでファシストが政権を取るという事態（有名なローマ進軍）が起き、翌年には共産党幹部らが逮捕されるなかで、コミンテルンはイタリア共産党の指導機能をウイーンに置くことを決定し、グラムシは1923年12月3日にはウイーンの到着していた（片桐、159頁）。
　松田はこのグラムシのモスクワ滞在中のレーニンとの会談と第四回大会でのレーニンの自己批判的発言に触発されて、グラムシが従来から問題意識として持っていた、受動的革命論、陣地戦論、ヘゲモニー論などの革命論の新しい展開を試みたと述べている（松田、51〜3頁にまとめがある）。

３．レーニンの4回大会報告
　レーニンの第四回大会での報告は、まずネップの評価から始まっている。これについては別に機会に論じるとして、第三回大会の決議について、レーニンは次のように述べた。
　「この決議はすばらしいものである。だが、それはほとんど一貫してロシア的である。つまりすべてが、ロシアの条件からとられている。この点に、決議の良い面もあるが、また悪い面もある。悪いというのは、外国人はほとんどだれひとりとして、これを読みとおすことができないと確信するからである。――私は、こう言う前に、もういちどこの決議を読みかえしてみた。第一に、それは長すぎる。それには、五〇あるいはそれ以上の項目がある。外国人は、普通、こんなものを読むことができない。第二に、たとえそれを読むにしても、それがあまりにもロシア的だから、外国人のだれもそれを理解するものはないであろう。・・・・それは、一貫してロシア精神が貫いているからである。第三に、例外としてだれか外国人がそれを理解したところで、彼はそれを実行することはできないだろう。これが決議の第三の欠陥である。・・・・私は、われわれが、この決議で大きな誤りをおかしたという印象、つまり、われわれが自分で今後の成功への道を断ってしまったという印象を受けた。すでに述べたように、決議の作成はみごとであり、私は、その五〇あるいはそれ以上の全部の項目に同意する。だが、われわれは、わがロシアの経験を、外国人にどう紹介したらよいかを理解しなかった。決議に言われていることはみな、空文句にとどまっている。しかし、これを理解しなければ、これからさき前進していくことはできない。われわれ全体にとって、すなわちロシアの同志にとっても、外国の同志にとっても、最も重要なことは、ロシア革命から五年たったいま、学ばなければならないということだと思う。やっといま、学ぶ機会をえたところである。」（『レーニン全集』33巻、447〜8頁）
　レーニンは「外国人のだれもそれを理解するものはないであろう」と述べ、「外国人がそれを理解したところで、彼はそれを実行することはできないだろう。」と予想したが、現実はそうはならなかった。コミンテルンの権威はこのテーゼの内容で実践する人々を生み出したのだ。そしてスターリン支配下では、それは物理的な力を背景に各国共産党に押しつけられた。
　またこのテーゼは、第二次大戦後の共産党にも引き継がれ、さらにはスターリン主義を批判して共産党から分離した60年ブントなどの新左翼の諸党派ですら、その影響下にあったのだ。レーニンは「外国人は、革命的活動の組織、構成、方法、内容をほんとうにさとるために、特別な意味で学ばなければならない。それがやられるならば、世界革命の展望は、有望であるだけでなく、すばらしいものともなるだろうと確信する。」（同書、449頁）と提言したが、この特別な意味で学ぶことはずっとネグレクトされてきたのである。特別な意味で学ぶということは、このテーゼの実践的な批判を提起することである。グラムシ研究者にそのような作業をおこなった人がいるかどうか不明だが、独自にその作業に手をつけよう。まずはコミンテルン3回大会決議「共産党の組織建設、その活動の方法と内容についてのテーゼ」を読まなければならない。引用は注にしておくとして、テーゼの概要とその問題点を示しておくことから始めよう。

第2章　コミンテルン第三回大会組織活動テーゼの問題点

１．党組織の指導性
　テーゼは、１　総論、２　民主的中央集権、３　共産主義者の活動義務、４　宣伝と扇動、５　政治闘争の組織、６　党新聞、７　党組織の全体的構造、８　合法的活動と非合法的活動、から構成され、全部で59項目の文章からなっている。一読して判明することは、このテーゼは武装蜂起による権力奪取の戦術を前提に書かれてはいるが、民主主義体制における労働者党の基本的な活動方針としても適用できることだ。今日の日本共産党の戦術は武装蜂起ではなく、議会での多数を通じての議会主義的革命であるが、その組織がこのテーゼを基本にしていてもおかしくはなく、また実際に基本にしている。さらに共産党から分離した新左翼諸党派の組織も、現実にはこのテーゼに書かれている内容を基本としているのだ。つまり党活動主導の階級闘争像がそこにある。
「（１）党の組織は、党の活動の諸条件と目的とに適合していなければならない。共産党は、プロレタリアートの革命的階級闘争の全ての段階をつうじて、またそれにつづく社会主義への、すなわち共産主義社会の第一段階への移行期においても、プロレタリアートの前衛、その指導的先進的部隊でなければならない。」　
このテーゼ第一項を認める限り、このテーゼの呪縛からは自由になれない。党組織の指導性の原理、これへの左からの批判こそがいま求められている。それは党派政治の限界とそれの超克の問題として検討されねばならないだろう。

２．権力奪取という目標と組織論
第三項には次の提起がある。
「ブルジョアジーに勝利し、ブルジョアジーの手から権力を奪取することが、さしあたってすべての党にとって決定的な、規定的な主要目的である。」
政治権力を奪取するところからしか社会革命が可能とならないという、この考え方はマルクス自身のものであった。しかし、この考え方は、ソ連の崩壊を見るまでもなく、歴史の現実によって覆された。これに代わる社会革命の展望が明らかにされるべきだ。それなしにはこの考え方は生き延びてしまう。
「共産党組織における民主的中央集権制は、中央集権制とプロレタリア民主主義との総合、融合でなければならない。」
党組織の優位性を認めれば、この組織論に同意するしかない。党組織の相対化をなしうるかどうか、これが問われている。
「広範な大衆をたえず革命運動に引きいれることにあり、そのさい、力によってではなく、権威により、精力により、他のものにまさる経験、多面性、能力によって、全運動にたいする指導権をしっかりそのてにたもたなければならない。」
このような党活動と大衆運動との関係性の設定は、独自の革命運動が政治権力奪取の闘いとしてあり、大衆の運動は自然発生的にはこの革命運動に到達しえない、という大衆運動に対する理解にもとづいている。権力奪取からしか社会革命は始まらないという理解とともに、大衆運動と革命運動とが分離しているという理解がある。機動戦と陣地戦という比喩だと、二つは有機的につながっているのだが、そういう理解ではなく、革命運動としては機動戦しか認めないという立場なのだ。

３．党活動
　革命運動としては機動戦しか認めないという立場からは次のような党活動が導き出されてくる。
「いちばん重要なことは、一人ひとりの党員が日常の党活動に参加することである。」
「日常の党活動を遂行するために、各党員は、通則として、つねに小さい活動グループ――グループ、委員会、特別委員会、会議体、フラクションまたは細胞――につねに所属していなければならない。」
「党活動のさまざまな分野における日常活動のために――戸別の扇動、党学習会、新聞の任務、文書の配布、情報任務、連絡任務等々のために――、共産主義的な中核グループがつくられなければならない。」
「各細胞、フラクション、活動グループは、それを実際に指導している党機関にたいして報告をおこなう義務がある。」
この党活動は、共産党や社会民主主義の党だけではなく、自民党や公明党も程度の差はあれ実践している。党組織のもとでの党活動の一般論として成立しうる。党派の必要性を承認すれば、このような活動スタイルは必然的に導入される。
「公然たる革命的蜂起に先だつ時期におけるわれわれのもっとも一般的な任務は、革命的な宣伝と扇動である。」
「共産主義的宣伝と扇動の主要な諸形態は、次のとおりである――口頭での個人的な説得、労働組合運動や政治的労働運動の闘争への参加、党新聞や党文書によるはたらきかけ。」
「資本の侵害に反対する不断の小戦争において労働者大衆を指導することによってのみ、共産党は、プロレタリアートを指導するすべを実際に系統的に学びとり、ブルジョアジーの排除を意識的に準備する能力を身につけ、労働者階級の前衛になることができる。」
革命的蜂起を想定している党派は今日では例外的にしか存在してはいないが、革命的宣伝と扇動として党派の活動を位置づける考え方は一般的である。革命的武装蜂起が、議会の多数派をめざした選挙運動に置き換えられているとはいえ、党派が独自の革命運動を担う存在であり、大衆の運動はこの党派の革命運動の発展に利用すべきものとしてしか位置づけられていない。これに対抗する思想は自己権力の思想であったが、これもまだ党派政治を止揚するところにまで到達しているわけではない。

４．社会民主主義主要打撃論
　機動戦を想定していることで、大衆にそれなりの影響力を保持している社会民主主義との闘争が重要な課題とされる。
「労働組合や、またさまざまな労働者政党の社会民主主義的その他の小ブルジョア的指導者とのたたかいでは、説得によって彼らからなにかを得ることを期待することはできない。彼らにたいしては、全精力をもって闘争を組織しなければならない。しかし、彼らにたいして確実に、また成功裏にたたかうことは、労働者に、彼らの指導者である社会裏切者どもが資本主義のために犬馬の労をとっていることを納得させ、これらの指導者からその支持者たちを切り離すことによってのみ、可能である。」
これが悪名高き社会民主主義に対する主要打撃論であり、レーニンはいち早くその誤りを認めて統一戦線論を提起したが、しかし党派の指導性を認め、独自の革命運動を承認すれば、近い味方への主要打撃論は必ず再生される。そういうものとして位置づけておく必要があろう。

５．革命の戦術と組織
　革命運動としては唯一機動戦しか承認しない立場からすれば、革命の戦術と組織はロシア革命のアナロジーで想定されざるを得ない。
「開始しつつある革命的発酵が一層進展した時期には、兵士および水兵による指揮官の民主的な選挙と、兵士評議会（ソビエト）の設立とのための扇動が、資本主義的階級支配のこの支柱を掘りくずすうえで非常に効果的でありうる。」
これは軍隊の解体を念頭に置いた方針であるが、このような想定を果たして現代ではなしうるであろうか。革命的運動をこのようなものとして想定すること自体は不可能だが、しかし何らかの意味で独自の革命運動が想定されているという現実をどのように中和できるのだろうか。軍隊解体は無理としても次のような革命的運動の想定はどのように評価するべきか。
「まず第一に、党がその細胞や活動グループの活動によって得たすべての結びつきを利用して、政治的組織化またはストライキ運動の主要な地点で集会を組織すべきである。」
「運動が主として労働組合的な性格をとった場合には、われわれのフラクションが十分な準備にもとづいて地区の労働組合指導部に直接の攻撃をくわえて、それを排除するか、あるいはこの指導部に、われわれの党の要求の基盤に立って組織的な闘争をおこなうことを強制することによって、なによりもまず労働組合にたいする組織的影響を強めることに取りくまなければならない。」
「わが党がその最良の組織をもちあわせていて、党の要求にたいして多数の賛成が得られた経済地域では、そのあいだに達成された地区の労働組合や経営評議会にたいする組織的圧力を利用して、この地域に起こったすべての個別的な経済闘争と、さらに発展しつつある他の諸グループの運動とを、一つの統一的な闘争運動に結集することを、なしとげなければならない。」
これは労働組合や地域のストライキ運動をはじめとする政治的組織化で、地区ソビエトを形成しようという方針である。これらの組織方針もロシア革命のアナロジーであり、このような発想からの解放が求められている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

参考資料：コミンテルン3回大会組織テーゼ（抜粋）

１．総論
「（１）党の組織は、党の活動の諸条件と目的とに適合していなければならない。共産党は、プロレタリアートの革命的階級闘争の全ての段階をつうじて、またそれにつづく社会主義への、すなわち共産主義社会の第一段階への移行期においても、プロレタリアートの前衛、その指導的先進的部隊でなければならない。
（２）共産党にとって絶対的に正しい、不変の組織形態というものはありえない。プロレタリア階級闘争の諸条件は、たえまない変転の過程をつうじて変化していく。そして、プロレタリアートの前衛の組織もまた、この変化に応じてたえず適切な形態をさがしもとめなければならない。同様に、歴史的に規定された各国の特質は、それぞれの党に適応した特殊な組織形態を条件づけている。
　しかし、この分化には一定の限界がある。さまざまな国における、またプロレタリア革命のさまざまな段階におけるプロレタリア階級闘争の諸条件には、あらゆる特異性にもかかわらず、相似性が存在しており、これが国際共産主義運動にとって基本的な意義をもっている。この相似性こそ、すべての国の共産党の組織のための共通の基礎をあたえている。
　この基礎のうえに、共産党の組織をひきつづき適切に発展させることが必要であって、既存の党を何らかの新しい模範的な党とおきかえようとつとめたり、絶対的に正しい組織形態や理想的な規約を求めたりしてはならない。
（３）大多数の共産党の、したがって世界の革命的プロレタリアートの総体的な党としての共産主義インターナショナルの闘争条件に共通しているのは、今後も支配的なブルジョアジーとたたかわなければならないということである。ブルジョアジーに勝利し、ブルジョアジーの手から権力を奪取することが、さしあたってすべての党にとって決定的な、規定的な主要目的である。・・・・
（４）行動が目的にかなったものであるためには、どんな共同行動にも指導が必要である。世界史上最大の闘争のためには、これはとりわけ必要である。共産党の組織は、プロレタリア革命の時期における共産主義的指導の組織である。・・・・
（５）革命的階級闘争を指導するためには、共産党とその指導機関とが、最大の戦闘力と、変化してゆく闘争条件への最大の適応能力とを有機的に結合していることが、前提となる。・・・・」（『コミンテルン資料集』第一巻、443〜4頁）
２．民主的中央集権制について
「（６）共産党組織における民主的中央集権制は、中央集権制とプロレタリア民主主義との総合、融合でなければならない。・・・・
　共産党における中央集権は、形式的、機械的な中央集権を意味せず、共産主義的活動の集中を、すなわち強力な、戦闘力ある、同時にまた適応能力のある指導部の形成を、意味する。・・・・
（７）・・・・
　組織上のたんなる形式的な民主主義は、官僚主義の傾向をも、無政府主義の傾向をも除去することはできない。労働運動内のこれらの傾向は、この形式民主主義の基盤のうえにそだってきたのだからである。・・・・党内において党の指導機関とその他の党員とのあいだに、さらにまた党と党外のプロレタリアート大衆とのあいだに、生きた結びつきと相互関係を発展させ、維持することが必要である。」（同書、444〜5頁）
３．共産主義者の活動義務について
「（８）共産党は、革命的マルクス主義の活動の学校であらねばならない。・・・
（９）・・・・この綱領を真剣に実現するための第一の条件は、すべての党員を不断の、日常の共同活動に引き入れることだからである。・・・広範な大衆をたえず革命運動に引きいれることにあり、そのさい、力によってではなく、権威により、精力により、他のものにまさる経験、多面性、能力によって、全運動にたいする指導権をしっかりそのてにたもたなければならない。
（10）・・・・・・いちばん重要なことは、一人ひとりの党員が日常の党活動に参加することである。
（11）日常の党活動を遂行するために、各党員は、通則として、つねに小さい活動グループ――グループ、委員会、特別委員会、会議体、フラクションまたは細胞――につねに所属していなければならない。・・・・
（12）党活動のさまざまな分野における日常活動のために――戸別の扇動、党学習会、新聞の任務、文書の配布、情報任務、連絡任務等々のために――、共産主義的な中核グループがつくられなければならない。・・・・
（13）・・・
（14）・・・共産党の細胞、フラクション、活動グループの広範な網の目が活動するようになるまでは・・・
（15）・・・
（16）われわれの党活動全体は、理論的あるいは実践的な闘争であるか、またはこの闘争の準備である。この活動の専門化は、これまではたいていはきわめて不十分であった。・・・・・
（17）共産主義組織の活動義務のうちには、必然的に報告提出の義務もふくまれている。
（18）・・・・
　各細胞、フラクション、活動グループは、それを実際に指導している党機関にたいして報告をおこなう義務がある。・・・
（19）・・・・」
４．宣伝と扇動について
「（20）公然たる革命的蜂起に先だつ時期におけるわれわれのもっとも一般的な任務は、革命的な宣伝と扇動である。・・・
（21）共産主義的宣伝と扇動の主要な諸形態は、次のとおりである――口頭での個人的な説得、労働組合運動や政治的労働運動の闘争への参加、党新聞や党文書によるはたらきかけ。・・・・
（22）
（23）
「共産主義者は、労働者階級のあらゆる初歩的な闘争や運動に参加し、労働時間、賃金、労働条件その他をめぐる労働者と資本家のあいだのあらゆる紛争において労働者の利益を代表しなければならない」（同書、450頁）
「資本の侵害に反対する不断の小戦争において労働者大衆を指導することによってのみ、共産党は、プロレタリアートを指導するすべを実際に系統的に学びとり、ブルジョアジーの排除を意識的に準備する能力を身につけ、労働者階級の前衛になることができる。」（同書、450頁）
（26）労働組合や、またさまざまな労働者政党の社会民主主義的その他の小ブルジョア的指導者とのたたかいでは、説得によって彼らからなにかを得ることを期待することはできない。彼らにたいしては、全精力をもって闘争を組織しなければならない。しかし、彼らにたいして確実に、また成功裏にたたかうことは、労働者に、彼らの指導者である社会裏切者どもが資本主義のために犬馬の労をとっていることを納得させ、これらの指導者からその支持者たちを切り離すことによってのみ、可能である。」（同書、451頁）
（30）
「開始つつある革命的発酵が一層進展した時期には、兵士および水兵による指揮官の民主的な選挙と、兵士評議会（ソビエト）の設立とのための扇動が、資本主義的階級支配のこの支柱を掘りくずすうえで非常に効果的でありうる。」（同書、453頁）
５．政治闘争の組織について
（31）
「どんなに弱い党でも、根本的な宣伝活動を系統的、計画的に組織し、遂行するならば、衝動的な政治的事件や、経済生活全体をゆるがせる大ストライキを利用することは、やはり可能である。」（同書、454頁）
「まず第一に、党がその細胞や活動グループの活動によって得たすべての結びつきを利用して、政治的組織化またはストライキ運動の主要な地点で集会を組織すべきである。」（454頁）
（32）示威行動は、非常に機動的な、そして献身的な指導部を必要とする。」（455頁）
「運動が主として労働組合的な性格をとった場合には、われわれのフラクションが十分な準備にもとづいて地区の労働組合指導部に直接の攻撃をくわえて、それを排除するか、あるいはこの指導部に、われわれの党の要求の基盤に立って組織的な闘争をおこなうことを強制することによって、なによりもまず労働組合にたいする組織的影響を強めることに取りくまなければならない。」（同書、456頁）
「わが党がその最良の組織をもちあわせていて、党の要求にたいして多数の賛成が得られた経済地域では、そのあいだに達成された地区の労働組合や経営評議会にたいする組織的圧力を利用して、この地域に起こったすべての個別的な経済闘争と、さらに発展しつつある他の諸グループの運動とを、一つの統一的な闘争運動に結集することを、なしとげなければならない。」（同書、457頁）

Read ebara's weBLog | Comments (0) | Trackback (0) | Reads (5763)

Previous entry | Next entry

Trackback URL of this entry

http://www.office-ebara.org/modules/weblog/weblog-tb.php/232